2主@幻水3 みっつめ。
カラヤ焼き討ち後で2主(イリク)、12小隊。
この頃の私の傾向を発見した
・「!?」より「?!」
・イリクが見た目「青年」(想定している年齢は変わらないけど、今は外見は「少年」に近い。童顔だし)
カラヤ焼き討ち後で2主(イリク)、12小隊。
この頃の私の傾向を発見した
・「!?」より「?!」
・イリクが見た目「青年」(想定している年齢は変わらないけど、今は外見は「少年」に近い。童顔だし)
グラスランドの中ほどに位置し、なだらかな丘が続く広大な草原―――アムル平原。
どの方角を見ても同じような光景が広がり、慣れない者であれば方向感覚が狂いそうな平原のど真ん中。そこにぽつんと立っている人影が一つ、きょろきょろと辺りを見回していた。
とは言っても、道に迷ったわけではないのは明るい表情を見れば一目で分かる。
「すごーい!大地!空!昼寝したら気持ち良さそう~!」
その言葉通りごろんと草原に横になると、イリクは空に向かって両手を伸ばした。
「雲~~!!」
逆行となった両手の間に雲がぽかりと浮かび、その下を鳥が一羽飛んでいるのが見える。
手を上げたのを呼んだものだと思ったのか、小さな点ほどの大きさだったそれはみるみる大きな影となり、やがて頭の横の草地に降り立った。
転がったまま顔だけ横に向けると目が合ってピィと鳴く。
人差し指で頭の部分をちょいと撫でると嬉しそうに羽を震わせた。
「ジョナも嬉しい?広い大空で。しばらくこの辺りにいるから、自由に飛んでおいで。カラヤクランを見つけたら様子も見てくれると嬉しいけど……気が向いたらでいいよ」
懐からごそごそと植物の種を取り出して鳥にやると、それを啄ばんだ鳥はピィと一声
鳴いて再び大空へと飛び立った。大きく円を描いていたかと思うと、やがて東に向かって飛び去っていく。
イリクは草原の上に大の字になったまま、それを視線で追っていたが。
やがて、心地良い風にふかれてうとうとと眠りに落ちていった。
***
「大将ーー!カレリアへ行くんじゃないんですかい?!」
「…………気になることがあるんでな、少しだけだ」
カラヤの焼け跡からアムル平原へ入ったゲドは、ほんの僅かに振り返るとそう答えた。
気になることって何すかとか何とか言っているエースはもう相手にせず、空へと戻した目を細く眇める。
ふっと、そこに険しい色を覗かせた。
カラヤの上空で見たナセル鳥が気になっていた。
村の現状を確認するように、上空を大きく何周も旋回していた。ゲドがその軌跡を目で追っていると、ついと西へ飛び去っていった。
まるで目的を持っているかのように、真っ直ぐ、西へ。
……調査を命じた者の元へ戻るかのように。
「まぁ大将が行くってんならついてきますけどね」
「山道には食べられそうな獣が少ないからのぅ、ここで兎を狩っておくのもいいかもしれんぞ」
ゲドの後を歩きながらエースとジョーカーが話していると、皆と少し離れた丘の上にいたジャックが一行を振り向いた。
「……………………ひと」
「は?」
「…………そこに……人が倒れている」
指している先はジャックが立っている丘の向こう側。
急いで丘の上に上ると、確かに少し先の方に若者が一人、仰向けに倒れていた。
いや、倒れているというより――
「あれは、どう見ても寝てるんじゃないか?」
「モンスターの出る草原で?お腹が空いて動けないとかじゃないかい?」
「なら助けないと!」
「……待て」
エースが首を傾げ、クイーンが疑問を口にする。
アイラは助けに出ようと飛び出そうとしたが、その前をゲドの大きな左腕が塞いだ。
片腕をアイラの前に出したまま右手で足元にある石を拾い上げると、少し思案した後
それをいきなり寝ている人物に向かって思い切り投げつける。
「ゲド!何するんだ……」
アイラが声を荒げた次の瞬間、ガキンと鋭い音が草原に響き渡った。
見ると、寸前まで仰向けで寝ていたはずの青年はいつの間にか中腰に起き上がり、両手に武器を握って構えていた。―――投げた小石は粉々に砕かれている。
並の腕ではない。
そう判断した12小隊の面々は反射的に武器を構えて対峙した。
上空から一羽の鳥が気遣うように青年の下へ降りていったが、彼が一言二言告げると再び空へと飛び上がり姿を消した。その間も青年からは寸分の隙も生まれていない。
そして、ゲドはその鳥が先ほどカラヤクランの上空を検分するように飛んでいたのと同じ鳥であることに気がついた。
一行はじりじりと、隊形を取りながら油断なく距離を詰めていく。
見慣れない武器を両手に持った青年は表情も変えずにその様子を見張っていたが、一行の顔を一人一人眺め回していた視線が、ふいにゲドの所で止まった。
その瞬間、ゲドの右手がちり、とかすかに疼く。
内心のざわめきを覚えつつ、それでもゲドは表情を全く変えなかった。
だが、何かを掴んだかのように青年の視線はゲドから離れない。
丘の上と下で、2人の視線がぶつかった。
「…………何者だ」
「それはこっちの台詞だと思うけど?寝てる人にいきなり石ぶつけなくてもいいんじゃないかな」
「こんな場所で寝ている『フリ』をしている人間が信用できなくてな」
お互いに視線をちらとも動かさず、落ち着いた声音での会話。
その間にもゲドの右手はちりちりと疼きを訴え続ける。
その正体を探ろうと相手の顔を睨みつけたところで、青年の目がふっと鋭く細められた。
「あなたの気配で起きちゃったんだよ。ここで何してるんですか?」
「鳥を追ってきた。…………カラヤで、何を調べようとしていた」
ゲドの言葉にアイラが激しく身体を震わせて反応する。
「カラヤ?!お前、鉄頭の仲間か?!」
「…………鉄頭?……って、何?」
きょとんとした返事に、だがアイラの勢いは止まらなかった。
「カラヤの村を襲った鉄頭だ!仲間じゃないのか?!」
「襲われた……?!カラヤが?!」
青年は初めて心底驚いた表情を見せると、ふいに武器を下ろして構えを解いた。
「……?関係ないのか?」
「カラヤクランへ行こうと思って様子を見に鳥をやったんだけど、誤解させたみたいだね。……武器を下ろしてくれるかな?話が聞きたい」
「………………」
「俺は敵じゃない、雷の人」
「…………ゲドだ」
「俺はイリク。もう一度言うけど俺は敵じゃない、ゲドさん」
「…………良かろう」
ゲドが剣を下ろすとそれに倣って他のメンバーも構えを解いた。
ジャックだけは少し離れた場所でボウガンを抱えたままだったが、イリクはそちらにちらりと目をやっただけで何も言わずゲドに近づく。
そしてお互いの表情がよく見える距離まで近づいたところで立ち止まった。
***
「それで?見たとこグラスランド人じゃないようだが、カラヤに何の用事だったんだ?」
口火を切ったのはエース。
それに対してイリクはひょいと肩をすくめた。
「特に何があるってわけじゃなかったんだ。こっちに来たはいいけどグラスランドはカラヤクランくらいしか知らなくてね。知り合いもいるし顔でも見に行こうかって」
「カラヤにお前の知り合いが?」
「君も見たところカラヤの子っぽいね。……ルシアは無事?」
「族長の知り合いなのか?」
「うん……まぁね」
暗殺されかけた仲デス。という言葉は飲み込んで、イリクは曖昧に頷いた。
デュナン統一戦争後、ルシアとテレーズとは和解し、それに伴いカラヤクランは一応デュナンとも友好関係を築いている。
外交をテレーズに一任していたこともあり、ルシアと外交の場で会うことはほとんどなかったが、それでも互いに面識はある(何度も闘っていることだし)。
グラスランドの情勢を聞くにはうってつけの相手だと思っていたのだが……
「それにしてもカラヤほどの戦士の村が、一体どうして……?」
「鉄頭が奇襲をかけたんだ!」
「ゼクセンと休戦協定を結ぼうとしていたんだが、協定途中で破棄されたらしい」
イリクの問いに、アイラとエースが同時に答える。
2人の言葉を聞き分けて、イリクはなるほどと頷いた。
鉄頭とはゼクセンのことらしい。
グラスランドとゼクセンは休戦協定を結ぼうとして失敗したというところか。
……よりによって、ハルモニアとの不可侵条約が切れる時に。
クランのことを思い出したのか、身体中から憤怒のオーラを上らせて身体を震わせているアイラを見やると、イリクは瞳を翳らせた。
「(確かに戦乱になりそうだ。……いや、もう始まっているのか)」
そこでちらりとアイラ以外の5人に視線を走らせた。
「(……でも、彼らは)」
彼らのまとう雰囲気には見覚えがあった。
ハイイースト動乱の時にちょろちょろと陰で動いていた者達の空気と似ている。
「(ハルモニアの工作員……傭兵ぽいから国境警備隊ってとこかな。南方か、西方か)」
武器も個性もバラバラで、それぞれが勝手に動いているようだが、その実きちんとチームで行動している。
そうして様々な場所に入り込み、多方面から情報を集めるのだ。
指示があれば、時に多方面からじわりと人々を扇動していったりもする。
ハイランド動乱では、皇家を失った人々の心をたくみにつついて人々を暴力に駆り立てた。
動乱を収めるための戦いに出た時、何度か彼らの姿を目にする機会があったから分かる。
彼ら独特の結束。
そして彼らの中心には――なかなか腕の立つ隊長がいることを。
イリクがゲドに目をやると、彼の片眉がぴくりと上がった。
「ちょっとだけ、いいかな?」
視線を横にずらして問うとしばらく黙考した後に黙って頷く。
すたすたと歩き出した2人の後ろで慌てたような声がいくつも上がった。
「ちょっと、大将?!」
「待ってろ。……すぐ戻る」
***
「ごめんなさい、時間もらっちゃって」
「…………」
「あのボウガンの人、まだ俺を狙ってるね」
「……すまんな」
「いいよ、別に。俺もあなたを信用したわけじゃないから」
皆から少し離れた、声が聞こえない程度の距離の所で2人は立ち止まった。
信用していないと言われてもゲドは表情を微塵も変えない。
「ハルモニアに属する真の紋章持ちを簡単には信用できないからね」
「……お前、やはり」
言いかけたゲドを制するようにイリクは言葉を継いだ。
「真の雷の紋章は炎の運び手の一人が持っていた筈だ。あなたがそうならなぜハルモニアにいる?」
「…………」
「あなたなら知ってるかな。なぜ真の紋章が騒ぎ出しているのか。これから起きようとしている戦乱にも関係あるんでしょ?」
「なぜ知りたい?」
「ざわざわしてうるさいから。……ハルモニアは何をしようとしている?」
ゲドは黙したまま、目の前の顔を見つめる。
イリクも黙って見つめかえした。
しばらくの間沈黙が2人の間に落ちたが、やがてふうとため息のように息を吐いた。
「俺が言わずともいずれ耳に入るだろう。……炎の英雄とその運び手を探すようにと中央からの指令がきた。グラスランドでは今炎の英雄復活の噂があちこちで立っている」
「炎の運び手って……あなたでしょ?出頭でもするの?」
「…………」
冷たい視線が返ってきてイリクは苦笑した。
「馬鹿言うなって顔しないでよ。ってことは、ハルモニアはその紋章のこと知らないんだ?」
「…………」
「ふぅん、隠せるものなんだね。……もしくは、泳がされてるかだけど……」
小さく呟いた言葉にゲドの目が険しくなったのを感じて慌てて手を振った。
「炎の英雄復活か。ティントでも噂が多くなったって言ってたな。炎の英雄に炎の運び手、それを求めてハルモニアが侵攻。折りよくグラスランドとゼクセンの休戦協定が壊れて紛争中、攻撃するにはもってこいだよな……」
言いながら、でもと首を傾げる。
「ここで起きる戦乱はそんな感じだろうけど……。紋章の騒ぐ気配はそんな感じじゃないんだけどな?」
「……お前は何を知っている?」
「何も。騒ぎが起きる気配だけ」
「…………」
「でも、ありがとう。ちょっと様子が分かってきた。もう少しうろうろしてみるよ」
「……ハルモニアには、来るな。余計な騒ぎになる」
「そうするよ。戦乱に深入りはしたくないしね」
「…………ではな」
あっさりと背中を向けて仲間の元へ戻りかけたゲドの背に声がかかる。
「余計なお世話かもしれないけど、気をつけて。その真の雷をハルモニアに利用されないようにしてね」
足を止めたゲドは頭だけをイリクに向ける。
「……お前もな。ただでさえ面倒なことになりそうなのにデュナンまで巻き込むな」
「俺のこと知ってたんだ」
「それだけはっきり名乗れば分かる。イリクの名を持つ真の紋章持ちは2人といないだろう」
「捕まえようとは思わない?」
「俺の仕事じゃない」
呟くように言い捨て、そのまま去っていったゲドの背中をイリクはぼんやり見守った。
ゲドの仲間達がこちらを見ているので手を振って別れの挨拶をする。
気がかりそうに何度かこちらを振り向きながら去っていく一行を見送ると、彼らの姿が完全に丘の向こう消えたところで空を見上げた。
「ジョナ!」
ピィと澄んだ声が応え、茂みの中から鳥が飛んでくる。
イリクは差し出した右手の上に止まった鳥にエサをやって頭を撫でた。
嬉しそうに羽を震わせる様に顔を綻ばせたが、右手を少し掲げると鳥に目線を合わせた。
「それで、カラヤはどうだった?」
「ヤケノハラ。ヒト、ゼンゼンイナイ」
「そっか……襲われたというのは本当なんだね。ルシアも……当然いないだろうな」
まぁどうしても会いたいわけではなく、話が聞ければもうけものくらいの気分でいたからゲドから話が聞けた以上、それは構わないのだが。
「ここまで来たし、とりあえず跡だけでも見てみようか。この地で何が起きようとしてるのか、少しは分かるかもしれないし」
呟くと、ゲド達が立ち去った方向へ向かって歩き出した。
「ここだけ見てるとのどかなんだけどな……」
足下の柔らかな感触を楽しみながら、広い広い草原を眺めやる。
だが、歩いていると自然と顔は俯きがちになった。
「(人が死ぬのを見るのは、嫌だな)」
それでもわざわざ戦乱が起きると分かっている地へやって来た己を振り返る。
「…………でも気になるんだもん、仕方ない」
鳥が肩へ移動したことで空いた右手を軽く見る。
グラスランドへ来てから紋章が感じるざわめきが大きくなった。
特定の紋章の気配を感じるというわけではなく、ただ漫然とした、ざわめき。
―――それも嫌な気配を伴った。
軽く頭を振ると大きく深呼吸をする。
風に混ざって、乾いた大地の匂いがした。
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