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その夜、デンベーン港にて
消滅したHPから救済シリーズ。
当時のタイトルは星屑裏側シリーズ:第5章。
星屑団長と側近3名(ティアクラで言うところのシトロっ子)が港で大暴れする話です。

冒頭に本編を抜粋して引用してます。



裏側シリーズ:第5章



最も北側の桟橋に着けてある船が、突如として内部から爆炎を噴き出し、火だるまとなった。

「な、なんだっ!?」
「どうしたっ!?」
兵士たちが大慌てで駆けつける。鉄の装甲を施された船の全体が一気に燃え上がるなど、普通の火炎ではあり得ない。魔道による攻撃の可能性がある。
そう判断し、臨戦態勢で現場へ急いだ兵士たちは、天を焦がす炎を背にした4人の人影を見た。
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彼等の目の前に人影のひとつが突然現れたかと思うと。振り上げた拳を、足元に叩きつけた。
それだけで、桟橋は下部の支柱までが砕け散り、ズタズタに裂けて崩れ落ちる。
「うわああああっ!?」
当然、そこに立っていた兵士たちは足場を失い、桟橋の破片と共に海に落ちた。
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魔道士の杖から、数十条もの雷光が一斉に発せられた。
恐るべき雷の嵐は甲板を縦横無尽になぎ払い、マストを焼き尽くし、船腹を深々と抉る。甲板上の兵士が一掃されたばかりか、船そのものが原型を留めぬまでに破壊された。もはや沈むのも時間の問題だろう。
また別の人影が、射かけられる矢にも構わず一隻の船に駆け寄る。
女性らしき華奢な腕が、不釣合いな大剣を大きく振りかぶり、そのまま垂直に振り下ろす。剣の切っ先は船腹に届いてさえいないのだが——まるで、無限に長い不可視の刃を備えていたかのように。船体から上甲板から船底まで真っ二つに断ち割られた。前後に分断された船体はたちまち傾き、断面から乗員や積載物をこぼしながら沈んでいく。

「なんだ……なんだこいつらは!?」
「ば、バケモノか!?」
秩序を重んじる≪オルダ≫の兵士の間にさえ、混乱と恐怖が走っていた。
そんな中、ひとりの兵士が思いいたる。
「ま、まさか…… ≪星の兵団≫か!?」
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「我々≪オルダ≫に刃向かう不倶戴天の仇敵! 秩序の破壊者だ!!」
そう怒鳴り、改めて戦意をかき立てる兵士たち。
次の瞬間、その場の十数名が一気になぎ倒された。
倒れ伏し、意識を失いかけた彼等の目に、無造作に剣を構えた戦士の影が映っていた。


(第5章「雄途」その2 より)

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夜の海面に船上の灯火がいくつも映り込み、揺らめいている。
デンベーンの港に停泊している船は10隻近く、その全てに明かりが灯されていた。船と港を結ぶ桟橋も明るい光に照らされ、≪オルダ≫の兵士たちが規則正しい足音を響かせてその上を往復している。酒を飲んでハメを外す者がいないのはもちろん、すれ違う彼らの間には会話すらなかった。

その警備態勢は「なぜこれほど」と町の人々が首を傾げるほどだったが、港の北端にある倉庫の陰から≪オルダ≫の様子を窺っていた3人は「相変わらずだな」と呆れたように呟いた。

「秩序、秩序と。規則正しいことに囚われていては警備など何の意味もない。危難を予測できると信じているからあやつらの動きはまるでただの行進ではないか」
眉をひそめ、まるで出来の悪い生徒に頭を悩ませる教師のように首を振る男は、黒いマントに身を包んで辺りの闇とすっかり同化している。その横で、大きな剣を腰に下げた女も肩をすくめた。
「何度警備網を破られたら気づくんだろう。こんなの、法則さえ読めれば誰でも侵入できる」
「ただそこにいて、昼夜を問わず町を守っている。そんな格好が見せられれば良いんだろう」
静かな声音で応えた男は、無表情のまま、手にしていた縄を左右に引っ張った。
ぎゅっと締め付けるような音に続いて、かすかな呻き声がロープの下から漏れる。
拳闘士はそれを冷めた目で見下ろし、縛られた男の意識が戻っていないことを確かめると倉庫の中に放り込んだ。
そこには既に数人の≪オルダ≫兵が意識を失った状態で運び込まれている。この辺りを警備している兵士たちの交代時間はまだ先だから、当分見つかる恐れはない。

振り返った拳闘士は、低い声で団長の名を呼んだ。
倉庫の壁によりかかり、腕を組んで軽く目を閉じていた男がゆっくりと目を開ける。
彼の目配せを受けて、3人はその周囲に集まった。

「これが東の大陸での緒戦となる」

団長の言葉に、彼らはそれぞれ頷きを返した。
言われなくても分かっている。そのために、仲間内でも最強であるこの4人で来たのだ。
だが、軍師である魔道士が「目的は3つだ」と言葉を続けると、女剣士が首を傾げた。
「2つじゃなかった?」
「≪オルダ≫の東方大陸進出の出鼻をくじくのと、≪書≫の奪取だな」
確認するように拳闘士が続けると、魔道士は頷いた。
「もう1つ、加わった。先ほど受けた報せによれば…——団長」
突然話を振られ、腕を組んで頷いていた団長がびっくりしたように顔を上げた。
「なんだ」
「作戦の話をしている。そのしまりのない面を何とかしろ」
「なにっ? しまりのない顔なんてしてないぞ」
ほう、と言いながら魔道士の目がすっと細くなる。
何か言われるかと反射的に身構えた団長に対し、彼はうっすらとした笑みを返した。
「ならば、団長殿から説明を頼む。3つ目の目的を」
「うむ? ……ああ、わかった」


「キャリオからの報せによれば、この街で3人が星の印を得たそうだ」
団長の言葉に、女剣士と拳闘士が少しだけ目を見開いた。
星を得る者が現れること自体に驚きはない。今回のように急速に≪オルダ≫支配が進めば、反発する者が現れることは不思議ではない。
しかし、デンベーンは≪オルダ≫との相性が良いという報告があった。
1人や2人ならともかく、3人——しかも、作戦を遂行した混乱の後に見つかるのではなく作戦前に見つかることは稀だ。稀なだけではなく、危険でもある。その場合、星を得る原因となる≪書≫は、≪オルダ≫の所有する物である場合があるからだ。

問いかけるような視線に対し、団長は頷いた。
「2人はキャリオの≪書≫に反応した。が、1人は≪オルダ≫支部の中で≪書≫に反応し、そのまま拘束されたそうだ。2人は、彼の救出に支部へ向かう。目的地は同じだから、キャリオがこれに同道する」
女剣士が納得したように頷いた。
「その陽動も兼ねるということか。面白い」
「ああ」
不敵に口の端を持ち上げた彼女に対し、団長も笑みを浮かべた。
「ぜひ仲間に誘いたい。だから、派手に行く」
「なるほど…」
拳を顎に当てた拳闘士は、ちらりと上目遣いに団長を見上げた。
「なんだ? 質問があるのか?」
「いや。…………団長」
「なんだ」
「そのしまりのない面を何とかしろ」
「なにっ!?」
「——そろそろ時間だ」
女剣士と拳闘士のひそやかな忍び笑いを断ち切ったのは、魔道士の声だった。
ささやくほど低い声を聞いた瞬間、全員の表情がさっと変わる。
「では、行くか」
軽く口にして歩き出した団長の左右に魔道士、女剣士、拳闘士が並んだ。


 ************


船や桟橋には明かりが灯され、港には煌々と篝火がたかれている。
明るい桟橋に立っていた見張りの一人は、その晩の異変を、まず耳で捉えた。

「——五、四、三…」

低いが、凛としてよく通る声が響く。
見張りの兵士はびくりと肩を震わせると慌てたように左右を見回した。
闇に目を凝らすと、まるで緊張感を感じさせない歩調で歩いてくる4人の姿が視界に入る。
一番端を歩いていた黒い服に身を包んだ長身の男は、ぴたりと視線を彼に当てるとニヤリと口を歪めた。

「一、発火」

その瞬間、彼の背後で爆音と共に巨大な爆炎が空へと噴き上がった。



爆風で吹き飛ばされた見張りが立っていた位置へ、4人はそのまま歩を進める。
そこで身体の向きを変えると、巨大な火柱を背後に従えつつぐるりと港を見回した。
轟音に驚いた兵士たちが口々に叫びながら飛び出してくる。
動揺しているのがありありと分かる。≪オルダ≫の兵士は不意打ちに弱い。入って間もない兵士は、特に。

「これなら、街からでも見えるだろう」
炎が作り出す上昇気流にマントをはためかせながら、軍師が無表情に呟いた。
「街中の≪オルダ≫に集まってきてもらいたいところだな」
団長が不敵な笑みを浮かべる。女剣士は無言で剣を抜き、拳闘士は両手の拳をたたき合わせた。

「よし、未来の同志に俺たちの勇姿を見せてやろう!」
「≪オルダ≫にも、だ」
「むしろそちらが主目的だが」
「分かってる!」
「撤収の合図を見逃すな。街を抜けるまでは単独、集合は打ち合わせどおり山道の入口だ」
魔道士の言葉に頷きを返し、3人は再び前を向く。

『捕らえろっ!!』
指揮官らしき男が叫んだのと同時に、団長が鋭くささやいた。
「派手にいくぞ。……散開!」

了解との言葉も返さず、4人はさっと四方に散った。


 ************


拳闘士の拳が片端から桟橋を打ち砕き、海上に残された船を片端から魔道士の雷撃が燃やしていく。
燃え盛る船から対抗魔道が発せられようとするのを、女剣士の大剣が港から一刀両断に断ち割っていく。

港で一度に十数人を相手にしながら、団長は薄く笑った。
なるべく多く船を破壊する。そうすることで、デンベーン支部は西方大陸への報告が遅くなるだろう。
それは元々の作戦だったが、それにしても派手だ。≪オルダ≫が灯していた明かりはもうほとんど破壊されているというのに、こんなにも夜空が明るい。
剣を合わせた兵士の一人に、彼はふわりと微笑んで見せた。

「たった4人に破壊される秩序か。…もろいものだな」
「! 何を!!」
「その怒りの感情は秩序に反するんじゃないのか? なすがままを受け入れ、あるがままに従うのだろう?」
「っっ!! 貴様が……!」
「怒れ、そして疑問を持て。お前の敵は俺たちとは別にいる。…………忘れるな」
告げると同時に剣を横薙ぎに払う。
人形か何かのように吹っ飛んでいった身体にちらりと目をやると、自分を取り囲んでいる十数人に視線を移した。

「お前たちも考えろ。自分の頭で考えられないやつに、俺たちは倒せない」

すっと身体を低くかがめる。ハッと気づいた兵士たちが武器を構える前に、剣から放たれた衝撃波が彼らを襲った。

「ひ、ひるむなっ!!」
「——≪オルダ≫が唱える秩序という名の妄言に諾々と従っているから、俺たちを予測できない」

大声で叫ぶ指揮官の声よりも、彼を一瞬で倒す団長の声がなぜかよく通る。

「秩序の破壊者めが…!」
「お前たちが秩序の体現者なら、なぜ負ける? 考えてみろ。なぜ、負けるんだ?」
「この…っ!!」
「自分の頭で考えてみろ」

素早く移動しながら、≪オルダ≫兵たちの四方から団長はささやき続ける。
彼がささやくたびに風が起き、兵士たちがなぎ倒されていく。


大剣を振り回しながら、女剣士が苦笑した。
「毎回、語りかけなければ気が済まないらしいな」
「それが団長だ」
彼女から少し離れた場所で拳を振るっていた拳闘士が言葉短く答える。
既に桟橋の大半を破壊した彼は、飛んできた弓矢をしゃがんで避けるとその勢いのまま腕を軸に回転し、迫ってきた兵士たちを一斉に転がしていた。

桟橋付近で雷撃を放っていた魔道士は、首をひねると街区を見やる。
「そろそろか」
小さく呟くと、手にしていた魔道の杖を頭上高くに振り上げた。

魔道士の頭上に、白く大きな球体が浮かび上がる。バチバチと音がしているそれは、巨大な雷撃球。
燃え盛る船の炎よりも明るく、港全体が白い光に照らされた。
「…やばい、あの男を止めろ!!」
誰かが大きく叫んだが。

「遅いわ」

ニヤリと笑った魔道士が杖を振り下ろすと、白球は狙い違わず港の≪オルダ≫詰め所を包み込んだ。
一拍置いて、あたりが真っ白に塗りつぶされる。あまりの眩しさに、兵士たちは思わず目を閉じた。
閉じた視界の裏までもが白い。そんな中、詰め所が爆発する音が聞こえ————


≪オルダ≫の兵士たちが目を開いた時、4人の姿はもう港のどこにもなかった。
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2024/10/21 19:15 | Comments(0) | 二次創作

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