前回の続き。
1軸でテオ
1軸でテオ
第二の使者がやってきたのはそれから二週間後。
ここから都までは往復で一月かかるはずだから、自分が送り出した使者が帰ってくる前に出されたことになる。自分の指示を先回りして読んだということか。
どちらにしろ一月後と思っていた情報が早く着くことは歓迎だ。……それが気分の重いものであったとしても。
先日と同じく人払いをして密偵と二人になったテオは最初から厳しい目をしていた。
今度の使者は封書を持っていない。それは紙の証拠を残せないということで、自分にとって嬉しくない話であることは容易に想像がついた。
「報告せよ」短い言葉は低く、細められた目から心の奥を読み取ることは出来ない。
使者は頭を垂れて跪いた。
「申し上げます。レン、クレオ、グレミオ三名の国家反逆罪は罪人テッドの隠匿によるもの。前三名は逃亡後の行方が知れませんが、反乱軍に属し刑の執行待ちであった逆賊を逃亡させたとの情報も入っており、重ねて重要参考人として手配中とのこと」
眉間にきつく皺を寄せて聞いていたテオの目が見開かれる。
「……テッド?彼は息子の友人だ。彼が何をしたというのかね」
「彼の者はウィンディ様を害せんと欲し宮廷を破壊した、と。現在はパーン殿の通報により逮捕、投獄中です」
「……馬鹿な」
出征前日、共に夕食を食べた息子の友人を思い出す。息子の良き友でいてくれと言った自分に対して「こいつが嫌だって言ってもそうするつもりですよ」と笑っていた。
戦災孤児であった彼を拾って都に連れていったのはこの自分。
何か深いものを抱えていることには出会った最初から気付いていたが、よく笑いよく食べよく走り、息子とじゃれあうようにして遊んでいるところはごく普通の少年だ。宮廷を破壊?彼にそんな力はないはずだ。
そこでふと思う。……恐らく罠にかけられたのはテッド君か。言われなき罪をかぶせられた友人を見捨てるような息子ではない。恐らくかばおうとして追われた。クレオとグレミオはそんな息子を守ろうとつき従い、そしてパーンはテッド君の無実を晴らそうと残った。そんなところか。
実は大体のところで正解な考えを巡らせつつ、それでも何故テッドが狙われたのかは分からない。しかしパーンが残っているのであれば、任せてみてもいいだろう。
――それよりもう一つの方だ。
「あれが反乱軍に属していると?」
「そう、聞いております」
「…………」
反乱軍。首謀者は軍師の名門シルバーバーグ家の一員であるオデッサ・シルバーバーグだと聞いたことがある。頭の回転が速く人を惹きつける才があり、それまで烏合の衆だった反乱組織を軍を呼べるほどの集団にまとめあげた人物。現在の国内不穏分子第一人者。
テオとて現在の国内政治が荒れていることは分かっている。都にいると気付きにくいが、一歩外に出れば圧制に苦しむ民で溢れ、近衛兵を見る民の目が年々厳しくなっていることも。
だが、だからといって反乱を起こすのは余計に国を混乱させるだけだ。国境争いを収束させ、国内を平定し、然る後に意欲ある若者が国を中から変えていくべきだとテオ自身は考えている。
――だが、彼の息子はどうなのだろう?
おそらく仕官によって初めて都以外の町の疲弊をみた息子。国から追われて不信を抱いたところを反乱軍の連中に唆されたのではないか。彼は頭は切れるが優しく、人を信じやすい。その隙をオデッサ・シルバーバーグに突かれたのだとしたら……
「……口車に乗せられたか?」
テオは知らない。彼の息子が何を見たのか、友人から何を託されたのか。少年だった彼が短い間にどれほど内面で変化を遂げているのかを。
ただ自分の知る息子から事態を推理しているだけ。というより現状ではそれ以外に出来ることはない。
使者を帰した後、配給や駐屯地の指示を出すための報告書を見つめながら重い息を吐き出す。
……出征前日の家族揃っての食事風景が、ひどく遠いものであるように感じられた。
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