忍者ブログ
北征の地で
二次創作を始めたものすごく初期、1年半ほど前のテキストです。
テオが北方に出征してから、解放軍討伐に向かうまで(一騎打ちまではいかない)。

3回くらい続きます




第一報を受けたのは帝国の北方、ジョウストン都市同盟との国境地帯だった。


ジョウストン都市同盟の一つであるサウスウィンドウ市とは、国境を巡って長いこと紛争が続いている。テオが今回受けた指令は、その事態の収束。互いに手の内が読めているために大規模な戦いには発展しないものの、絶え間なく続く小さな戦いはかえって精神的な疲弊を招く。任務についてからまださほど時は経っていないが、戦略の指示を出すよりも兵士達の士気を保たせることに辛苦する日々が続くと、いっそ全軍同士のぶつかりあいになれば軍内の鬱屈した空気を発散できるものを、と内心思わずにはいられなかった。
こうした場で指揮を執ることは慣れていたが、だからといって得意になるわけでもなく。表には出さないものの少々参っていた。

そんな毎日だったから、都からの密偵が彼のテントを訪れた時も最初は都市同盟の動向を探っていた斥候の報告かと思っていた。差し出された封書の証印を見て都からだと気付く。

彼は職務柄、何ヶ月も都を離れることが多い。その間に国の中央で起きたことを把握するため、出征の際には信頼できる部下を数名残しておくことにしていた。普段は帰還直後に報告を受け取り、謁見の挨拶前にざっと目を通している。
都に残った部下がわざわざ報告を送ってくるのは緊急時だけ――7年前の継承戦争のような。
だから。

「何か――あったのか?」

人払いをし、密偵を部屋の隅に待たせたまま急いで書簡に目を通した。予想したような反乱軍の中央蜂起ではなく、その点については安心する。が、……想像もしなかった事態が起きていた。

『マクドール家嫡男レン・マクドール、家人グレミオ、食客クレオ、右記三名国家反逆罪につき指名手配中。当該三名は現在首都グレッグミンスターから逃亡、未だ発見ならず』

「……どういうことだ、これは」
隅に控えた密偵に問いかける声は地を這うように低い。
「某はただの使いにて詳細は存じ上げませぬ」という返事に唸り声を上げた。

まだ眠っている息子の顔を眺めてから出征したのはわずか一月前のこと。
息子は武人一辺倒の自分と異なり政治家としてもやっていけるのではというほど学があるが、その一方で腕もかなり立つ。その癖家柄に奢るようなこともなく、他者との付き合いも上手く人を使う器もあり、性格は温厚。はっきり言ってどこに出しても恥ずかしくない自慢の一人息子だ。国から追われるようになる理由など思い当たらない。それに自分が出征した日から仕官も始めた筈。
「(……仕官)」
そこまで考え、テオはわずかに眉を寄せた。
「確か上官はクレイズだったな……」
権力にへつらい弱者に尊大な小心者のクレイズ。自分から見ても人の上に立つ器ではなく、レンも苦労するだろうと思った。
「何か、陰謀にはめられたか……?」
もともとその危険を感じていたからこそ、クレオやパーンにレンを守るよう指示を出していた。だがそのクレオも共に追われているとなると…………いや、待て。
「そういえばパーンはどうした?」
鋭い視線と共に投げられた視線に対して、それには返事が出来る密偵は膝をつく。
「現在はクレイズ殿の指揮下にあるとのこと」
「…………そうか」
その返答を聞いて再び迷う。クレイズの罠にかけられたのだとすれば一本気のあるパーンのことだ、単独で宮廷に訴えることくらいのことはしかねない。それがクレイズの指揮下に収まっているということは、……奴の罠ではないのか。

いくら考えても答えは出ない。
そもそも都から遠く離れたところにいる自分にはどうすることも出来ない。
「……この件に関しての仔細が分かり次第、引き続き情報を頼むと伝えてくれ」
そう指示するのが精一杯だった。
PR

2006/12/09 23:47 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<北征の地で・2 | HOME | 指定キャラと会話形式で答えるバトン>>
忍者ブログ[PR]