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2024/05/03 02:49 |
何となく書いてみた・6
星屑第1章その5。
結果が分かってる話ほど切ないものはない。



―― 第1章「決戦」 ――


■その5


トッシュは槍を強く握りしめ、必殺の一撃を放つべく気を高めていた。
彼の前方では、リーオーの楯が防護結界を展開している。そこにアシェンの魔道防護が重なると、彼女の前面に光り輝く巨大な楯が出現した。
リーオーが、一度大きく肩で息をする。そのまま1歩前へ踏み込むと、光の楯が≪敵≫の障壁に接触した。
閃光が宙を走り、轟音が円堂を震わせる。
楯と障壁が互いを喰らい合って発する咆哮だ。

「……くっ……」

押し返されそうになるのを、リーオーは気迫で耐えていた。
そのすぐ側で楯に魔道力を流しこんでいるアシェンの顔も歪む。リーオーを支えるように、自身も1歩前へと進みでた。
その時、ひときわ激しい閃光が走ったかと思うと、障壁の抵抗が消えた。
だが、リーオーとアシェンは止まらない。2人はさらに1歩、前へ出た。

新たな閃光が宙を走る。光の楯が2層目の障壁に阻まれたのだ。
ここまでは予想どおり。1層目の障壁と2層目の障壁の位置は、先に散った3人が教えてくれた。
「……はあ……っ!」
リーオーの気合に合わせてアシェンがさらに力を振り絞り、光の楯はよりいっそう輝いた。
2人とも、とうに呼吸が乱れているが、続ける以外の選択肢は初めからない。

「(――ダメだ)」

「(――まだダメだ!)」

トッシュは、走り出そうとする体を意志の力で必死に押さえつけていた。
今出たら、リーオーとアシェンの覚悟を無にしてしまう。限界まで――限界を超えるまで気を高めなくてはならない。だから、まだ早い。頭ではそう理解しているのだが、油断すると駆け出してしまいそうになる。
「(――まだ早い!)」
自分を叱咤した勢いで、さらに気を高めていく。

しかし、2層目は1層目よりも頑強なのか、それとも2人の力が限界に近付きつつあるのか、1層目を破るのに要した時間を過ぎても2層目はまだ壊れない。
やがて、光の楯の輝きが徐々に薄れ始めた。
ピシリ、と小さな音も響く。リーオーの楯本体に亀裂が入り始めているのだ。
「ううっ……ぐうう……っ」
うめき声と共にアシェンが楯に魔道力を注ぎ込む。浅い呼吸を繰り返し、身体を小刻みに震わせながら、それでも彼が気合を入れると、ほんの少し楯の光が強くなった。しかし、すぐに再び弱くなる。
「ま、まだ……! あと、もう少し……!」
軋む体を意志だけで支え、リーオーがさらに楯を押し出そうとした時、円堂の中に乾いた音が響いた。
光の楯が消え、限界を超えたアシェンがくぐもった声を上げて血を吐き出した。

「楯が……!」

リーオーの目の前で、銀白色の楯が細かな破片になってパラパラと散っていった。
レオノス守護騎士の魂だった。そして、母から譲りうけた形見の楯だった。
それが砕け散っていく。
楯だけではない。それを構えていた左腕も、ズタズタに裂けていた。
アシェンが床へと倒れ伏す。

それを意識しながら、
「まだあっ!!」
リーオーは残った右腕で剣を引き抜いた。

彼女は守護騎士だから、剣を使って戦ったことはない。今まで剣を抜いたことは、生涯で一度しかない。
しかし、構わなかった。いまここで使わずいつ使うというのか。あと1回、たった1回でいい。
身体に残った秘められた魔道力を解放し、自分の生命力を全て剣に乗せて、それを障壁に叩きつける。
父の形見の剣が光となって散る直前、2層目の障壁が消滅するのを、リーオーは確かに感じた。

急速に薄れていく意識の中で、リーオーはかすかに微笑んだ。
「(――アシェン、ありがとう)」
そして静かに目を閉じる。
「――トッシュ……。あとを、頼みます」

倒れ込もうとしたリーオーの身体がぶわりと浮き上がる。
既に力尽きたアシェンと共に、小柄な身体は無慈悲なまでに強力な力によって薙ぎ払われていった。

「うおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

同時に、槍と同体となったトッシュが、光と風の渦をまとって突入した。
アシェンとリーオーが開けた2層目の穴へと迷いなく進んでいく。

――3人の全力で、1層でも多く障壁を破る。
それが彼らの目的だった。

もし運が良ければ、全ての障壁を破って≪敵≫の本体に届くかもしれない。
さらに運が良ければ、倒せるかもしれない。
だが、たとえ力尽きても構わない。
自分たちは第一陣、第二陣を合わせた最後だった。しかも途中のんびりしてしまったせいで、すぐに団長たちが来る可能性が高い。自分たちが障壁を減らしておけば、その分だけ団長たちが勝つ可能性も高くなるだろう。

そう。
後に続く者がいるから、この戦いは無意味ではない。
ここで命が尽きても、犬死にではない。
そんな、作戦とも言えない作戦に、3人は全てを賭けたのだ。

――果たして。

槍の穂先は、またしても宙空で止められた。半ば予想していた通り、3層目も存在したのだ。

「……それが、どうした」

トッシュは歯を食いしばった。
これは、ガレガドが、シャリヤルが、ブランシュが、アシェンが、リーオーが撃たせてくれた一撃だ。

「貫けないはずがないだろ……ッ!」

叫ぶと同時に穂先に宿った光の輝きが増した。
障壁へと食い込んでいる一点が、激しい閃光を放ちながら断末魔の悲鳴を上げる。
息を止めて槍を握る手に力を込めると、穂先はじりっと障壁に食い込んでいった。
見えざる壁が、裂けて行く。

「あああああああ!!!」

気迫と共に槍を突き出した時、ついに3層目が砕け散った。
しかし、トッシュは止まらない。そのまま≪敵≫に向かって突進した。
次の層があればここだと思っていた場所を抜ける。
必殺の穂先が、≪敵≫の胸元に吸い込まれるように迫る。

「(いけるか!?)」

そう思った時――――

槍が、折れた。

呆然とする間もなく、トッシュの身体はゴウッという凄まじい轟音に包まれた。
全身が裂けたかと思うほどの凄まじい衝撃が彼を襲う。
その小柄な体は宙高く、円堂の後方へ軽々と跳ね飛ばされていった。
しかし――
一瞬で真っ暗になった視界の中で、彼は、確かに聞いた。

「トッッシューーーーーーーーーーーッッ!!!!」

待ち望んだ団長が、彼の名を呼ぶ叫び声を。

「(だん、ちょ……)」

微笑もうとした時、床に叩きつけられる衝撃がトッシュを襲った。


 *********


「はぁ……はぁ……」

4人分の荒い息づかいが円堂の壁に反響する。

≪星の兵団≫の将である英雄と、3人の側近たち。
無傷の者はひとりもいない。いや、全員が満身創痍と言っても良かった。
対する≪敵≫は、謎めいた光を背に、未だ悠然と立っている。

トッシュたちのしたことは無駄ではなかった。
団長は、トッシュから≪敵≫へ素早く視線を移すと、トッシュの元へ駆け寄ることではなく、彼が破った3層目の障壁の穴に剣を突き立てることを選択した。彼らが破った障壁に復元の時間を与えなかったのだ。
そして、駆けつけた3人の側近と共に残りの障壁を1層破った。
状況の把握は、その戦いの中で行なった。仲間の死体を目にするたび、彼らの瞳に激怒の色が浮かぶが、色を失った攻撃をすることはしない。
アイコンタクトすら必要としない見事な連携で、さらにもう1層を削り取った。

しかし、その間に4人も多くの傷を負った。
障壁はまだ尽きていなかったが、それでも4人の目に宿る闘志は衰えを知らず、構えにも揺らぎはなかった。

これは決して退けない戦いだ。
未来のために。
ここで倒れた仲間のために。

悠然と立っていた≪敵≫が口を開く。
これまでここにやって来た者たちに聞かせたのと同じ台詞を、再びその口から吐いた。

「108の星ももはや君たちを残すのみ……。未来はすでに決した。これ以上の戦いは無意味だ」

相対していた4人の表情がぴくりと動く。

「……無意味だと?」
拳闘士が、拳を強く握りしめた。

「ふふふ……つまらぬことを」
軍師は皮肉げに唇をゆがめ、嘲笑する。

「私たちの戦いに意味があるかどうか! それを決めるのは貴様ではない!」
女剣士も、構えた大剣にさらなる気迫を乗せた。

3人の言葉を聞いた団長が、きっと顔を上げる。
≪敵≫を正面から睨みつけると、大声で断言した。

「俺たちは貴様が定める未来など断じて認めん! 戦う理由ならそれで充分だ!」

団長が剣を握り直したのが合図となり、皆はそれぞれの武器を構えた。
これが決着の時だ。
障壁があと何層残っているのかはわからないが、彼等の余力ではあと一度の攻撃が限度だろう。
その一撃に賭けるしかない。

「星の印を全て解き放ち貴様を討つ! 行くぞっっ!!!」

4人が全く同時に動いた。

軍師の掲げた杖が、彼の全魔道力を吸収してまぶしく光り輝く。
女剣士と拳闘士が左右から走りこんで来る。
鋼をも断つ大剣と、旋風を巻く拳。それぞれ周囲の空気をねじまげそうな熱気を放っている。
そして、正面からは団長――この世界の英雄の剣が迫る。
まるでトッシュの力が宿ったかのような、光を帯びた神速の切っ先が空を切り裂く。
4人の攻撃は、目的の一点へと集約される。

「おおおおおっっっ!!!」

雄叫びが大気を揺るがした。
波動が荒れ狂い、壁や天井がゆらゆらと揺れる。
円堂内に閃光が満ちあふれた。


そして――……



第1章「決戦」~了~
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2012/03/26 14:35 | Comments(0) | 二次創作

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