忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 17:52 |
何となく書いてみた・5
星屑第1章その4
今回もそこそこ自分設定はいってます。リーオーとアシェンが好きすぎて…



―― 第1章「決戦」 ――


■その4


最初に動いたのは、ガレガドだった。
「……てめえ……」
くいしばった歯の間から低くかすれた声が漏れる。
ひたりと相手を見据えた目は激怒のあまりギラギラと輝いていた。

シャリヤルがハッと気付いて手を伸ばした。
「いかん!」
「てめえがっ!! てめえがやりやがったのかあっ!!?」
だが、制止の手がガレガドの身体に届く寸前、彼は吼えながらは飛び出していた。

「戻れ!!」
「ガレガド!! だめええぇぇぇ!!!」
シャリヤルとブランシュの声が届いた様子はない。
突進を始めたガレガドの巨体は止まることなく、みるみるうちに”それ”に近付いた。

「うおおおっっ!!!!」

咆哮とともに、右手の銛にあらん限りの力を乗せ、影の人物に向かって叩きつける。
その穂先が――空中で止まった。
敵から数歩分も手前で、まるで見えない壁に阻まれたかのように。

それからは息を飲む間もなかった。
次の瞬間、ガレガドの姿はトッシュたちの目の前からかき消えた。
ゴウ、と耳鳴りのするような風が頭上を走る。
そして、ほぼ同時に、壁際で耳を震わせる轟音がとどろいた。

「っ!?」

5人は弾かれたように振り返った。そして音がした方向へ目を向けると――
円堂の壁の上の方、背の高い壁が緩やかなカーブを描く天井へと変わるあたりに、何かが貼り付いていた。

それがガレガドだと分かるのに一拍の間を要した。
すぐに気付かなかったのは彼の周りに飛び散っている大量の血のせいだと気付くのに、さらに一拍を要した。
目で捉えきれないほど激しい勢いで跳ね飛ばされ、壁に叩きつけられたのだと――すぐには理解できなかった。

手足が、首が、だらんと力なく垂れ下がっている。
弛緩した左手から銛が離れる。それはやけにゆっくりと落ちていき、床に当たって硬質の音を反響させた。
少し遅れて、全身がずるずると壁を滑り落ちてきた。腕が何かに引っかかる。それに引っ張られるようにして反り返った後――肩より高い場所から、頭を下にして、落ちてきた。静まり返った円堂の中、べしょりという鈍い音がハッキリと耳に届く。

命あるものの動き、命あるものの音ではなかった。

5人の間に不気味な沈黙が落ちた。
「ガレ……ガド……?」
震える声で問いかけても、答えはない。
「やだ……いやだ……っ! 返事してよガレガド!! ガレガドおぉぉ!!!」
ブランシュが絶叫した。

ガレガドとトッシュとブランシュ、この3人は物心つく前からの友人だ。
あまり一緒にいなかった時期もあるが、常に変わらず気持ちは通じあえていた。
その友が、目の前で――なのに、何も出来なかった。

トッシュの悔恨はブランシュも同じだろう。
制止の手があと少し届かなかったシャリヤルも、それこそ何も出来なかったアシェンとリーオーも、青くなった顔に悔恨を浮かべて唇を噛んでいた。
だが、誰もガレガドに駆け寄ることはしない。どんなに駆け寄りたくても、今この戦闘隊形を解くことは出来ないからだ。

きっと5人から睨みつけられた≪敵≫は、逆光のせいで相変わらずその表情を窺い知ることが出来なかった。
先程と変わらず、全く同じ場所に同じように佇んでいる。
ガレガドに襲われたことに気付いていないのではとすら思わされる。
その≪敵≫が、初めて口を開いた。

「我を受け入れよ。不完全な世界は終わりを告げる」

恐ろしく平坦で抑揚のない、何の感情もこもっていない声だった。
この世界を不完全な世界と言い切った。これは、≪オルダ≫の言う完全な秩序との関わりを示唆している。
とすれば、これが秘儀の結果ということなのだろうか。
≪オルダ≫は秘儀によって、これを呼び出したのか。

「我を受け入れよ」

平坦な声で、≪敵≫は繰り返した。

「世界の未来は確定した。これ以上の戦いは無意味だ」

「(……無意味、だって……?)」
トッシュは血がにじみ出そうなくらい強く唇を噛み締めた。
ガレガドの、仲間たちの死を、こいつは無意味と言うのか。
「(…………許せない)」

「ふざけるな!!!」

意外なことに、叫んだのはシャリヤルだった。握りしめた刀身から、烈火の炎が一気に湧き上がる。
「そのような世迷いごと! 聞く耳持たんっ!!」
「勝手に決めるな! 無意味なもんかっ!!」
ほぼ同時にシャリヤルとブランシュが走り出した。
「シャリヤル!!」
「お前らは後攻だ! 勝機を掴め! 連携にて倒すぞ!!!」
ブランシュと一瞬目線を交わし、シャリヤルは彼女の前に出た。ガレガドが跳ね飛ばされた少し手前で曲刀を振り上げると、そのまま勢いよく振り下ろした。
それはガレガドの銛と同じく空中で止まったが、見えない壁を予期していたシャリヤルがそこで跳ね飛ばされることはない。彼が気合を込めると、刀身をまとう烈火は爆炎へと姿を変えて燃え盛り、見えない壁を食い破りはじめた。

「この障壁は防護魔道に近いものだろう。ならば……受け止められる攻撃には限りがある、はずだ」
食いしばる歯の隙間から、シャリヤルは己の推論を説明した。
「そして、限度を超えれば……必ず、破れるはずだ!!!」
「障壁を破った瞬間にあたしがあいつを狙う。必ず、あいつにナイフを叩きこむ! トッシュたちはあいつの反撃に注意して! あたしたちは障壁に集中してるから、あいつの隙を見逃さないで!!」
彼の背後でナイフを構えたブランシュが、後ろも見ずに叫んだ。
シャリヤルの推論を裏付けるように、炎と接した部分から凄まじい雷光が走り、正視に耐えない強烈な光芒を放っている。見えない障壁とシャリヤルの爆炎とが争っているのは明らかだ。

「(だけど……だけど!!)」

トッシュは焦燥感に襲われながら2人の背中を見守っていた。
障壁を破るのであれば、トッシュの槍で援護したい。しかし、雷光と爆炎の勢いが凄まじ過ぎて近寄ることさえ出来ないのだ。唯一の安全地帯であるシャリヤルのすぐ後ろにはブランシュがいる。

「シャリヤル!」
「ブランシュさん…!!」
アシェンとリーオーも焦燥感にかられた声を上げる。
「隙なんて見当たらない……僕たちも一緒に障壁を破らないと……!!」
アシェンの言葉にトッシュとリーオーは頷きを返す。だが、それでも彼らは見ているしかなかった。

「ぬぅあああああ!!!」
シャリヤルの咆哮と共に、炎はいっそう激しく燃え上がった。これほどの炎はトッシュたちも見たことがない。
自分の持つ全ての魔道力、さらには自分の生命力をも炎に変えているのだと、唐突に理解した。
彼は捨て身で障壁を破り、その後の戦いは全てブランシュやトッシュたちに託しているのだ。
しかしそれほどの炎をもってしても、障壁はなお抵抗を続けている。

これ以上はシャリヤルの方がもたない――そう思った時、突然円堂内を満たしていた光がかき消えた。
障壁が消滅したのだ。同時に、力を使い果たしたシャリヤルが態勢を崩す。
「後は……」
「わかってる!!」
ブランシュは目の前で崩れ落ちるシャリヤルには目もくれず、答えると同時に6本のナイフを放った。
四方に散らばったそれらは空中で軌道を変える。そして、ぐん、と勢いよく加速した。
それぞれ違う方向から6本のナイフが≪敵≫に迫る。

相手は、それでも全く動かなかった。
ナイフは障壁のあった空間を抜けて自分に迫っているというのに――
「(まさかっ!?)」
嫌な予感が脳裏にひらめいた瞬間、6本のナイフは空中で勢いよく跳ね返った。
「!?」
「別の障壁っ!?」
シャリヤルとブランシュの身体が一瞬固まる。

「逃げろーーーー…ッッ!!」

トッシュの叫びが終わるよりも早く、ゴウッと猛烈な風が円堂内の上から下へ通り過ぎていった。
リーオーが咄嗟に楯を展開させたが、その楯はシャリヤルとブランシュのいる所まで届かない。
目に見えない力の槌が2人を襲い、床に叩きつけるのを、見ているしかなかった。
次に、掃除をするように前から風が横に吹く。床に貼り付いていた2人は、べりっと剥がれるように一度宙に浮かぶと、そのままころりと転がった。

麻痺したように立ち尽くすトッシュ、リーオー、アシェンの耳に、無機質な声が届く。

「我を受け入れよ。君たちの抵抗はこの世界の未来に何の影響も及ぼさない」

その言葉は、耳には届いていても、彼らの脳まで届いていない。

――どうすればいい!?
――どうすればいい!?
――どうすればいい!?

3人が思うのは、もうそれだけだ。

ガレガドが、シャリヤルが、ブランシュが示してくれた貴重な手がかりがある。
しかし、それを活かす術はあるのか。
奴を倒す策は、あるのだろうか。

≪敵≫が『受け入れよ』と繰り返す。
その間は攻撃されないことを悟った3人は、互いに青ざめた顔を見合わせた。

「アシェン……魔道士としてのあなたの判断は?」
「絶望的、だね……」
リーオーの問いかけに、アシェンは率直な意見を述べた。
「ヤツはあの障壁を何層も持ってるみたいだし……シャリヤルが破った分も復元し始めてるよ。もうしばらくすれば元どおりだ」
「つまり、何層あるかもわからない障壁を全部破らないといけないってことか」
「それも、復元の時間を与えないよう続けざまにね。……1層だけでも……」

アシェンが飲み込んだ言葉の続きは全員が理解していた。
その1層だけでも、シャリヤルの全魔道力、全生命力が必要だった。今の3人で、それが敵えられるのか。
少なくとも2層あることは分かっているし、それを破ることは可能かもしれない。
しかし、その先で戦うことが出来るほどの余力があるとは考えられない。さらに、もし3層目があったら――
「(無理だ)」
トッシュはそう結論付けた。3人で、あの≪敵≫に勝つことは出来ない。
逃げでも何でもなく、今までの情報を整理するとそういうことになる。
「(俺たちでは、無理だ)」
そう思った時、ふいに光明が差した気がした。

ふうっとリーオーが息を吐き出した。
「確かに、絶望的ですね」
その口調が変わっていた。言葉どおりに絶望している雰囲気ではない。
「絶望的だねえ」
アシェンの口調も先ほどとは変わっている。いつもの、軽口を叩いている時のアシェンだ。
自棄になっているというのではない。目には力が戻ってきていた。

「でも、オレたちは最後じゃない。まだ団長たちがいる」
「はい」
「そういうことだね」
トッシュの言葉に、2人とも迷いのない目で頷いた。どうやら3人とも考えていることは同じのようだ。
ならば、あとはその作戦を実行するのみである。

リーオーは、アシェンに光の戻った目を向けた。
「アシェン。あなたの力を全て私に下さい」
「喜んで」
アシェンが笑って承諾する。
そちらに微笑みを返すと、リーオーはトッシュに目を向けた。
「最後は、トッシュ。あなたに委ねます」
「いや、ダメだ。オレが先に行く」
「ダメですよ。譲りません」
彼女は柔らかく微笑んだまま、首を左右に振った。

「あなたの技は放つ直前に無防備になります。……私に、あなたを守らせて下さい」

笑顔の中に、絶対に譲らない覚悟がみえる。
反論出来ずに詰まったトッシュの肩に、アシェンがポンと手を置いた。
いつもの冷やかすようなニヤニヤした笑いではなく、穏やかな笑みを浮かべてる。
「気持ちはわかるよ。ありがとね、トッシュ」
「ありがとうございます」
リーオーも礼を言った。
「そんな顔しないでください。私はレオノスの守護騎士。守ることが役目ですから」
そんなリーオーの頭をアシェンがくしゃくしゃに撫でる。
「うん。大事な人を守れるんだもんね、リーオーは良い技を持ったよ」
「そうですね。アシェンも、ありがとうございます」
「ふふん、大事な妹分の助けになってやれる僕も、良い技を持ったと思うよ」
リーオーとアシェンは同じレオノス王国の出身だが、両親同士の仲がよく昔から親戚づきあいをしていたと聞いている。トッシュとガレガドたちとは形が違うものの、やはり幼馴染だ。

「……リーオー」
「はい」
「別の世界のオレたち、覚えてるよね」
「え? はい」
いきなり何の話をするのだろうというように首を傾げたリーオーに、トッシュは柔らかく微笑んだ。
「あっちのオレとリーオー、きっとデンベーンへ行くよ」
塔の中を歩きながらそんな話をしたのが、ずいぶん昔に思えてくる。
ガレガドの漁しまくりの食いまくりも、船のマストへ案内する約束も、全てもう果たされることはない。
しかし――それらの約束が果たされる世界も、きっとあるはずだ。
リーオーの顔にも笑顔が広がった。
「そうですね。きっと」

アシェンが2人に手を伸ばした。右腕にリーオーを、左腕にトッシュを抱えてこつん、こつんと額を合わせる。
顔を上げた彼の顔には今まで見たことがないような優しい笑みが浮かんでいた。

「さて、始めようか」
「はい」
「ああ!」

3人は≪敵≫へ向き直る。

「行きます」

涼やかに言って、リーオーが走りだした。

PR

2012/03/26 14:29 | Comments(0) | 二次創作

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<何となく書いてみた・6 | HOME | 何となく書いてみた・4>>
忍者ブログ[PR]