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2024/05/17 16:49 |
何となく書いてみた・4
星屑第1章その3。
今回はいくぶん自分設定多めなので二次と言ってもいいかもしれない。



―― 第1章「決戦」 ――


■その3


一行は、リーオーを先頭に塔の内部を進んでいた。
その後ろをガレガド、トッシュ、アシェン、ブランシュが続く。しんがりがシャリヤルだ。

この順序について、塔に入る時に少しもめた。ガレガドが自分が先頭に立つと主張したからだ。
しかし、リーオーも譲らなかった。
「私なら、どんな敵の奇襲を受けても必ず防いでみせます。少なくとも、最初の一撃は」
そう言い切った守護騎士以上に防御に優れる者など存在しない。ガレガドといえども折れるしかなかった。

しかし事件らしい事件といえばその一件だけで、塔に入ってからは単調な道行きがひたすら続いていた。
第二陣は12ある入口に均等に散ったから、この経路も既に第二陣の仲間が通った後だ。そのため所々に甲鉄兵の残骸が転がってはいる。しかし、単調な景色に変化を与えるのはそれだけだ。新たな甲鉄兵は勿論、人影ひとつ見かけない。窓がないから外の景色を見ることもできず、変わらない景色の中をひたすら歩くしかなかった。

またひとつ階段を昇って上の階層へ出た。
角を曲がるとき、この先にひょっとしたら敵がいるかもと期待にも似た気持ちを抱いてしまう。そして、角を曲がった後になぜか落胆を覚えてしまう。
勢い込んで乗り込んだだけに、この状況には正直拍子抜けだった。こうして変わらない景色の中をひたすら歩かせて油断させる罠なのかもしれないが、それにしては内部への侵入を許しすぎている。通路には定期的に部屋の入口があったが、そこにも誰もいなかった。

新たな甲鉄兵の残骸を見つけて、トッシュは眉をしかめた。出てくる(出てきた)敵が常に甲鉄兵なのも気味が悪い。≪オルダ≫には人間の兵士もいる。本部に限って魔道人形ばかりなのは何か理由があるのだろうか。

「どしたの、トッシュ?」
アシェンがトッシュの顔を覗き込む。彼は結構年上なのだが、童顔の彼は普通にしているとトッシュと同年代にしか見えない。『だから、なんか若返る気がするよね』と笑ったのが本気だったのかよく分からないが、ともかく彼は同じ隊にいる時はトッシュの横に並ぶことが多かった。
「ここ、≪オルダ≫の本部だろ? なんで人っ子ひとりいないのかな」
「ああ、甲鉄兵ばっかりだよね」
頷くと、アシェンは「僕もさっきから考えてたんだけど」と天井を仰いだ。
「完全なる秩序の世界に人間は不要だ、なーんてオチだったりして」
「……笑えないよ、それ」

≪オルダ≫に入った人間は、感情を失っていく。決められた”秩序”に従って、その通りにしか行動しなくなる。
人間というより、人形のようにさせられてしまうのだ。そう、先程の甲鉄兵のように。
「(……まさか……)」
思わず背筋がぞくりとした時、後ろにいたブランシュが「まっさかあ」と笑い飛ばした。
同じ『まさか』でもトッシュの考えた内容とは随分違う『まさか』だ。

「単純に、あたしらが攻めて来るってわかったから逃げたんじゃないの?」
「ん? それじゃあここはもぬけの空ってことか?」
相槌を打ったガレガドが、ハッと天啓を受けた顔になって振り返った。
「待てよ、だったら攻め込んでも意味ねえじゃねえか!」

「……馬鹿者。本当にもぬけの空ならば甲鉄兵に守らせる必要もあるまいが」
最後尾から皆の会話を聞いていたシャリヤルが深いため息をついた。
振り返って見なくても分かる、今彼は心底あきれ果てたという顔をしてるに違いない。
「囮の可能性も考えていた。だが、あれだけの数を投入しているとなるとそれもないだろうな」
「じゃあ、なんでこんなに人がいねえんだよ?」

先頭を歩いていたリーオーが、前方に注意を払いながらちらりと後ろを振り返った。
「人がいなくても、ここは≪オルダ≫にとって重要なんですよ……」
リーオーの声は重い。なぜ重要なのかを考えたからだろう。
「たくさんの甲鉄兵に守らせて、人間だけを退去させる、か。何かロクでもないことをここでやらかすって話、本当なのかもしれないね」
アシェンが独り言のように呟いた声も低い。

「(……完全なる秩序を実現する秘儀……)」

トッシュの中で、今まで”完全なる秩序が実現した世界”のイメージが湧かないために、どこか半信半疑だった秘儀の存在が急に重くなってきた。
本当にそんなものがあるなら、絶対に阻止しなければならない。しかし、その秘儀の内容が全くわからないのに、止めることができるのだろうか。今まで覗いた部屋の中には、秘儀に使われそうな道具はおろか、重要そうな物は何一つとして置かれてなかったのだ。
リーオーやシャリヤル、アシェンにブランシュまでが無言になった。重苦しい沈黙が一行を包み込む――

――かのように思われたが。

「ま、上まで登ってみりゃわかんだろ。先に上った道中がカタぁつけちまってるかもしんねえけどよ」

気楽に言い放って、ガレガドは「ハラ減ったな」と携帯食の干し魚をかじりだした。
ボリボリという音が廊下に響き渡る。それだけで重い空気はあっさり消し飛んでしまった。

「えっと……ガレガド?」
「なんだ? トッシュ」
ボリボリボリ。
「……こぼしてるよ」
「気にすんなよ、甲鉄兵の残骸よかマシだろ」
ボリボリボリ。
ガレガドが干し魚をかじるたびに欠片がぼろぼろとこぼれ落ちている。
それでよく怒られていたので、呆然とした頭で思わず注意してしまったが。
「確かに」
トッシュはぷっと吹き出した。確かに、甲鉄兵を散々蹴散らした後に言う台詞ではない。

「ガレガドって自由だよねー」
「まったく、敵の総本山に乗り込んでいるのだぞ。不謹慎にもほどがある」
アシェンとシャリヤルが呆れたように言うが、ガレガドはまるで意に介した様子はなかった。
「いいじゃねえか、ハラ減ってたんだからよー。敵が出りゃシャンとするぜ」
尾びれの部分を口に放り込み、バリバリとかみ砕く。唇に残った欠片をぺろりと舌でなめとると、ふうと息を吐き出した。しっかり1匹分食べたくせに、あまり満足そうな表情ではない。

「なに? オレのも食べる?」
「いやいや、ちげーよ。とりあえずハラは落ち着いた」
ぽん、とお腹を叩くと「ただよぅ」と情けない顔になった。
「ヒモノもいい加減飽きたぜ。イキのいい魚、食いてえなあ……」
トッシュもガレガドと同じ港町の出身だから、その気持ちは分かる。
特にガレガドは網元の息子だ。物心ついた時から舟に乗り、漁をしてはその場で魚を食べてきた。
彼は両手に銛を持って振り回す巨体だが、意外にも魚をきれいに三枚に下ろすことまで出来るのだ。
しかし、本拠地である城も山の中。普段の行軍も専ら山が多く、魚は保存食として干物にするのが基本だ。
「デンベーンに帰ればいくらでも食べられるよ」
トッシュが言うと、ガレガドは一転して陽気な笑顔を浮かべた。
「だな! よーし、終わったら久々に船出して魚捕りまくりの食いまくりだ!」

「その時は、私もご一緒してもいいですか?」

そこで会話に入ってきたのがあまりにも意外な人物だったので、トッシュは思わず目を瞬いた。
「え?」
疑問符が4つ重なる。トッシュとガレガド、2人の会話を苦笑しながら聞いていたブランシュとアシェンだ。
「リーオーが?」
「はい」
前方に注意を払いながらも、リーオーはトッシュの疑問に律儀に頷きを返す。そして続けた。
「レオノスは海に面していませんから、私は海のことよく知らないんです」
「それでデンベーンに?」
「はい。トッシュたちの故郷も見てみたいですし」
「そ、そう……」
ちらりとこちらを振り返ったリーオーが、トッシュに向かって悪戯っぽく微笑んだ。
「船のマストというものにも上ってみたいです」
「あ、わわ…っ」
「なになに何の話っ!?」
「な、なんでもないっ! そんな話をちょっとしたことがあっただけで……」
瞳をキラキラさせて食いついてきたブランシュを押しやると、トッシュはリーオーに頷いた。
「じゃあ、終わったら皆で一緒にデンベーンへ行こう」
「はい」
にこりと笑ったリーオーが再び前を向く。
「(”みんな”でー?)」とささやいてきたアシェンに、トッシュは無言で肘を入れた。

「いててっ。それにしても、リーオーは元気だねえ。ぼくは国に帰ってゆっくりしたいよ」
腰をさすりながら、アシェンが童顔に似合わない枯れた希望を述べた。
「ゆっくりできるの? あんた宮廷魔道士筆頭じゃなかったっけ?」
「そんなの誰かに任せるよ。1年くらいは家でのーんびり過ごしたいね」
「それって引きこもりじゃん」
「そうとも言うね」
ブランシュのツッコミも、アシェンは蛙の面に水だ。
「まあ遊びに来るなら歓迎するよ? お土産は生魚でよろしく」
「デンベーンからレオノスまでどのくらいあると思ってんのよ、無理言うな。てゆーかそれって遠まわしに来るなって言ってる?」
「他に名産品とか名物とかないの?」
「……交易品、かなあ……」
「それってデンベーンの物じゃないじゃん」
「うるさいなあ! うちは漁と交易の町なの!」
ブランシュはアシェンとの会話を無理矢理終わらせると、振り返って最後尾を歩く魔道剣士にも聞いてみた。

「ねえシャリヤル、あんたはこれが終わったらどうすんの?」
まさか自分にも回ってくるとは思っていなかったのだろう、珍しく目を見開いた彼は、そうだなと腕を組んだ。
「各地に根を張った≪オルダ≫の支部を制圧して回ることになるのだろうな」
「うっわー、つまんねえ! つまんねえぞ、おっさん!」
あまりにもまっとうすぎる答えに、すかさずガレガドが混ぜっ返す。
ブランシュも口を尖らせた。
「そういうのじゃなくてさ、なんかないの? もういい年なんだから、ここらで所帯持ってみようとかさー」
妙に具体的な指示に、シャリヤルは苦笑を漏らした。
「砂漠の民には、いくさの後のことはいくさの後で考えろ、という格言があってだな」
「はあ?」
「その心は?」
すかさず口を挟んできたアシェンに対して、シャリヤルはニヤリと笑みを返した。
「戦が終わったらあれがしたい、これがしたいなどと口にする者に限って早死にをするということだ」
「えーーー何ソレ!?」
「そんなことより、お前たち、いいのか?」
「え? なにが?」
「さっきから歩くのがひどく遅くなっているぞ。ただでさえ俺たちは塔に突入したのが遅かったのだ。そろそろ団長殿らに追いつかれても知らんぞ」
「あ!」
「やべえ!」

一行は慌てて前を向いた。確かに気を抜きすぎた。
会話しながらも周囲への警戒こそは怠っていなかったが、この速度では第一陣、第二陣を合わせても最後になるのはほぼ間違いない。それだけで済めば良いが――第三陣にまで遅れるのは、さすがにまずい。
「スピード上げよう! リーオー、走っても大丈夫……ッ!?」
前に向かって声をかけたブランシュは、唐突に言葉を切ると勢いよく顔を上げた。
同時に全員がバッと武器を構え直す。

目に見える景色に変化はないが、全員が気付いていた。
塔の空気に、つい先ほどまで存在しなかった、何か異質な気配が混じっている。
それは明らかに頭上から――どこか上層階から漂ってきていた。
背中合わせに集まり、周囲を警戒する。
「なんだ……この感じ……」
誰かが呟いた時、足元がぐらりと小さく揺れた。

一拍おいて。

「うわっ!」
「なんだ!?」

≪秩序の塔≫全体が激しい振動を始めた。


 *********


その時、第三陣の団長ら4人は塔の間近まで来たところだった。
ブランシュがそれを知ればホッと安堵の息を漏らしたかもしれない。しかし、塔を見上げる団長らの目には憂いの色が浮かんでいた。

他の仲間たちが全員≪秩序の塔≫に突入したことは確認している。
それが作戦であるし、合理的であることも頭では理解しているが、仲間の死闘を後ろから見守るようなやり方はやはり本意ではなかった。今まで常に先陣を切っていただけに、見守るだけなのが殊更つらく感じられる。

「……本来なら、我々こそ先頭を切るべきなのにな」
「それはもう言うな。お前とて納得したはずだ」
女剣士の自嘲に答える軍師も口調が重い。彼とて先陣を切りたい気持ちはあった。
何しろ10年以上も待ち望んでいた決戦なのだ。しかし、だからこそ万全を期す必要がある。
「……」
拳闘士は無言のまま軍師の肩に手を乗せる。付き合いで言えば20年以上、女剣士の気持ちも軍師の気持ちも痛いほど理解していた。

「よし。俺たちも行くぞ」

振り切るように宣言した団長の背中を、3人は束の間見つめた。
彼が≪オルダ≫に何を思っているのか、今日の決戦でどれだけ先陣を切りたかったか、3人とも知っている。
それでも彼は軍師や仲間の提案を尊重し、最後尾となることを受け入れた。
「……ああ、行こう」
団長の横に軍師が並ぶ。さらにその両脇に、女剣士と拳闘士が並んだ。

横一列になって歩く彼らの前を遮るものはない。
仲間たちが片付けてくれた。動いているのはコントロールを失ってその場でぐるぐる回っている甲鉄兵だけだ。
そして、塔まであと少しという時――

大地が、揺れた。

「なにっ!?」
4人は即座に姿勢を変えた。地震としては、それほど大きなものではない。少し重心を落とせば特に苦もなく普通に立ってらいられる程度だ。
頑強そうに見える≪秩序の柱≫が損傷を受けたり、ましてや倒壊するなどということは考えにくい。
それでも、彼らは揺れに耐えながら、仲間たち全員が中にいる塔を見上げた。

そして、驚きに目を見開いた。

「ば、バカな……」
「なんだ、これは!?」
軍師が彼らしくない台詞を呟いた隣で、団長が彼らしくない動揺の叫び声を上げた。
「ち、≪秩序の柱≫が……」
女剣士の声が震える。

だが、呆然としたのは一瞬だった。団長はきっと顔を上げると剣を握りしめる。
「皆が心配だ。急ごう!」
「おう!!」

≪秩序の柱≫は――ほんの少し前まで≪秩序の柱≫と呼ばれていた建物は、いまや全く別の建物になっていた。
中にいる仲間たちは無事なのか。もはや一刻の猶予も許されない。
揺れが収まるのも待たず、4人は塔に駆け込んで行った。


 *********


「……どうやら収まったみてえだな……」

ガレガドはふう、と息をついた。その言葉を合図にしたかのように、皆もそれぞれ詰めていた息を吐き出す。
少し緊張は解いたが、円陣はまだ崩していなかった。まだ気を抜くことは出来ない。
抜けない理由があるのだ。
「ただの地震……じゃないな」
「ええ。そう思います」
トッシュとリーオーの言葉に全員が頷いた。

揺れの前と後では、塔の内部が一変していた。
見た目の話ではない。のっぺりとした”クソ面白くない”壁と床は、揺れの前から変わっていない。
しかし、そこに満たされた空気が明らかに変わっていた。
揺れの前にも感じた異質な気配が、何百倍にも増幅され、塔を覆い尽くしているような感覚。
見た目が変わらないからこそ、その異質な気配が余計不気味に感じられる。
嫌な予感がビリビリと肌に突き刺さってきていた。

「……これは、ヤバそうだね……」
「上で何かあったのかな……」
アシェンとブランシュの口調にもいつもの軽さがない。ブランシュは不安そうに天井を見上げた。
シャリヤルが、ぎり、と唇を噛んだ。
「ヤツら、本当に秘儀とやらをやりおったのやもしれん……」
それは、全員が心の中で考えていたことだった。ここまで気配を一変させる存在を彼らは知らない。
こんなに嫌な予感がすることも、いまだかつて一度もなかったことだ。

「急ごう!」

焦りを隠さずにトッシュが促し、全員が力強く頷いた。
もう辺りに気を配って少しずつ進む余裕はない。嫌な気配の源を求めて、最上階を目指して、6人は勢いよく走りだした。

――――そして、彼らは最上階へ到達する。第一陣と第二陣を合わせた最後の隊として。


 *********


最上階へ続く扉が見えたと思った時には、もう中へ飛び込んでいた。
その瞬間、6人の身体は金縛りに合ったように固まった。

――立ち尽くすしかなかった。

ただ、呆然と。

トッシュの頭に、ふいに今朝の光景が蘇ってきた。
南の丘の野営地で、皆で団長の話を聴いた。あの時、全身に力と闘志をみなぎらせていた仲間たちの姿は、今も鮮やかに記憶に残っている。みんなで『我らに、勝利を!』と叫んだあの歓声も。
あれから、まだ半日も経っていない。

マガラ軽騎兵団、エスカリア遊撃士団、クドラトの弓兵、アンヴァリン族、レオノス守護騎士団、ランブル族、スクライブ、ビスキール人、職人集団、ガンナー、雪女、漁師、海賊、その他たくさんの、多様な仲間たち……

彼らは皆、この場に集っていた。
≪秩序の塔≫の最上階に設けられた広大な円堂に、彼らはトッシュたち6人より早く到達したのだ。
そして、トッシュたちの到着を待っていた。

ただし、――屍と成り果てて。

石の床に倒れ伏している者がいる。
壁に背を預けている者がいる。
別の仲間の上に折り重なっている者がいる。
おかしな方向に身体が曲がっている者もいる。
抱きあうようにして倒れている2人が、トッシュが≪星の兵団≫に入る前から知り合いだった大切な人たちであることに気付くと、吸い込む息が一瞬止まった。ヒュッと喉が変な音を立てる。

全員、ピクリとも動かない。
呼吸をするわずかな空気の動きさえない。
まるで打ち捨てられた人形のように、ただ雑多に転がっていた。

ふらりと身体が傾きかけたリーオーを、後ろにいたアシェンが支えた。
リーオーは支えられたことにすら気付いていないだろう。アシェンも支えたことに気付いていないかもしれない。
支え支えられた姿勢のまま、2人は折り重なって倒れている一団を見つめていた。
「へー……か……?」
「ジェマ……ア、さま……」
掠れたささやき声が2人の唇から漏れる。

「あ、……あ、あ……」
ブランシュが意味をなさない嗚咽を漏らしながら後ずさりする。いやいやをするように首を振った。

「な、なんだよ……ウソだろ……なんだよ、こりゃあ……!」
剛胆なガレガドさえ、声を震わせて立ち尽くしていた。


「おまえたち! 気を確かに持てっ! 敵は目の前だぞ!!」


その時、シャリヤルの大音声が彼らの鼓膜を震わせた。ビクッと身体を震わせた5人は、その叱咤に即座に反応して武器を構える。シャリヤルを中心に左右に2人ずつ、彼らの一番前でリーオーが楯を正面に向けた。
5人に囲まれて立つシャリヤルの顔も青い。円堂に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、彼の右腕だった男だった。クドラトの一族がまだ≪星の兵団≫と協力関係を結んでいなかった頃、共に村を飛び出して2人で≪星の兵団≫に入った。以来ずっと共に過ごしてきた、その男が――自身の矢に貫かれて壁に縫いつけられていた。

誰かがギリ、と歯ぎしりをする音がした。
カチャリ、と柄を握り直す音がした。
既に6人とも戦意を取り戻している。呆然としている余裕がないことは全員が理解していた。ここに仲間たちが倒れているということは、倒した者がいるということだ。――この、円堂の中に。
「……あいつか」
アシェンが聞いたことのないような低い声で唸った。

障害物のない場所で、”そいつ”を見つけるのは容易かった。
円堂の壁の一部が、不可思議な光を放っている。四角に切り取られたその光はトビラのようにも見えるが、放つ光はトビラの比ではない。
それを光を背にして、何者かが立っていた。逆行になっているためよく見えないが、頭に帽子をかぶり、長衣をまとった人間のようだ。いや、人間のように見える。

「(……形だけは)」

そう考えたトッシュの背筋にぞわっと悪寒が走った。
そうだ、あれは人間ではない。あんなものが人間であるはずがない。
その存在が放つ気配は、あまりにも強大で、あまりにも異質だった。

人でなければ何者なのか。
完全なる秩序を実現する秘儀なるものと関係があるのか。
ならば、その秘儀を行った≪オルダ≫の最高幹部はどこにいるのか。
何もわからない。

今、彼らに分かることは2つの事実だけだった。

目の前にいるあれは、今まで遭遇したことのないような強い敵であること。
そして、同時に――104人の仲間たちの仇であること。


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2012/03/26 14:24 | Comments(0) | 二次創作

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