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七夕SSその2
突貫もいいところで書いた七夕SSその2。
25時からメンテに入るのに、日付ぎりぎりでさらに更新です。

今回は星屑で。彦星はトッシュ。



  ●七夕SS ―星屑トッシュ編―




流れる天の川。激しい雨。
このHPで何度か書いている七夕は、いつも天気が雨だ。

そして天の川の岸辺で途方に暮れる彦星が、また一人。

「行けるかな…。距離は分かってるけど、ギリギリだな……」

さっきから一人でぼそぼそと呟いている彦星の手には、長い槍がしっかりと握られている。
そしてなぜか鎧姿(軽装ではあるが)。
織姫の所へ年に一度の逢瀬へ赴くにしては、ずいぶんと物騒である。

「…あ、髪がへにょんってしてきた」

彦星、彦星。
気にすべきはそこじゃない。

トレードマークのツンツン髪がしとどに濡れ、ユーザーの誰もが見たことのない髪形になりつつある彦星は、その場で槍をぶんと振り回した。水滴が激しく飛び散り、彼の周りで一瞬雨が途切れる。
彦星は空を見上げると、すうと息を吸い込んだ。

「……やるだけ、やってみよう」

小さく呟くと、槍を構えて低く腰を落とす。
川面を睨みつけながら、静かに気をたくわえていった。
対岸から何らかの合図があると信じて疑っていない。

「(……まだだ。まだ……)」

身体の中に眠っている力を、一点に集めていく。
足元に力をこめると、水混じりの小石がジャリ、と音を立てた。

その時。

対岸から真っ白な閃光がほとばしった。
それは一条の光となり、豪雨を振り払って川の上をまっすぐ彦星に向かって走ってくる。
その勢いはすさまじく、荒れ狂っていた川面が一筋だけ穏やかな水面へと変化した。

「(今だ!!!)」

機を逃さず、彦星は地を蹴る。
槍と一体となった小柄な身体は、これまた一条の光と化した。
川面をすごい勢いで渡りだした彼の後ろに、大きな水しぶきが上がる。

光が途切れた瞬間、彦星は対岸に駆け上がっていた。


 *********


膝に両手をついて荒い息を吐き出した彦星を、織姫は穏やかな笑みで迎え入れた。

「さすがですね」

顔を上げた彦星は、織姫を見上げて微笑んだ。
「結構きつかった…。織姫の魔道のおかげだ。助かったよ」
「彦星の脚力は、昨年よりも上がったのではないですか?」
「織姫こそ。豪雨を払ってくれた時間があと少しでも短かったら危なかったと思う」
それは良かった。ぼくが手伝った甲斐があったよ
「!?」

割って入った声に、彦星はぎょっと辺りを見回した。
2人から少し離れた岩陰から現れた人を見て驚きに両目を見開く。

「え、ええっ? なんでアシェンがここにいるの!?
「思ったより雨の勢いがすごかったから、手伝ったんだよ。ぼくの魔道を織姫さまに分けてあげたんだ」
「助かりました、アシェン」
「いいっていいって。 あ、彦星。お礼は巨大鳥の羽でいいよ。じゃあね」

手を振って去って行こうとするアシェンを、彦星の低い声が呼び止めた。
振り返ったアシェンは、軽く肩をすくめてウィンクをする。

「後は若い者同士で楽しみなよ。……この台詞、言ってみたかったんだよね」
「…………アシェン」
「なに?」
「…………なんで、そっち側の岸にいたの? オレが1年、あっち側の岸にいたって言うのに」

どすのきいた声で問いかけられ、アシェンは楽しそうに片眉を上げた。

「もしかして嫉妬してる?」
「…………そんなんじゃないけど」
「そうだなあ」

くるりと身体の向きを変えたアシェンは、軽い足取りでやって来ると困った顔で立ちすくんでいた織姫の肩を抱いた。途端に彦星の顔が強張る。

「ま、ぼくのことはお兄さんと思ってくれればいいよ。織姫さまの、お兄さん。ね?」
「…………そんな設定聞いたこともない」
「やだなあ。織姫にだって兄貴くらいいるよ。現に、こぉーんな小さい頃から知ってるしね」

アシェンが手で腰のあたりの高さを示す。
そうだよね?と聞かれた織姫が困ったように頷いた。

「あ、あの……問題がありましたか? すみません…」
「そ、そんなことないよ!!」

慌てて手を振った彦星を見て、アシェンは楽しそうに笑った。

「じゃあもうぼくはいいかな?」
「…うん。ごめん、アシェン」
「気にしないでいいよ。先に帰ってお茶でも淹れておくね」
「ありがとう。…………っ!?」

彦星がバッと勢いよく顔を上げる。
アシェンがますます楽しそうに笑った。

「兄貴が同じ家にいるのは当然だよね~♪」
「ちょ…!」
「あ、邪魔はしないから気にしないでいいよ? 多分隣の部屋で耳を澄ましてると思うけど、それも気にしないでいいから」
「ちょっと……織姫!?」

機嫌よく立ち去っていくアシェンの背中を見送っていた織姫は、途方に暮れたような顔を彦星に向けた。
「………………すみません。手伝ってくれるお礼に泊まらせてくれって……」
「……」
「で、でも……彼がいなかったら、これほどの魔道はできなかったんです。すみません」
「…………織姫を責めてるわけじゃないから」
「本当に?」
「本当に」

小さくため息をついた彦星は、長い槍を肩にかつぐと初めてにっこりと微笑んだ。
「言うのが遅くなったけど。…久しぶり、織姫」
織姫の顔にも、ゆっくりと笑顔が戻ってくる。
「久しぶりですね、彦星。元気そうで安心しました」
「うん、オレも」
「ずいぶんと濡れましたね。家へ行きましょうか」
「そうだね……」

うきうきとお茶を淹れているアシェンの姿がちらりと彦星の脳裏をかすめる。
それを振り払って、彦星はもう一度微笑んだ。

「うん、行こうか」


雨は、まだ降っている。




とんだお邪魔虫つき。アシェンも彦星にしようかと思いましたが、妙なポジションに落ち着きました。一人だけ名前出し…
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2009/07/07 23:58 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

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