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七夕SSその3
懲りずに七夕SSの三弾目。
今回も星屑で、彦星と織姫は団長夫婦。
……今さらすぎますが、七夕関連はすべてパラレルです。
本編ではあり得ない時間軸からお送りしてます。




 ●七夕SS ―星屑団長編―


「すごい雨だな……」
空を見上げた彦星が呟いた声には、隠しようもない憂いの色があった。


  *********


彼が立っているのは天の川の隣、ではない。
朝から降り始めた雨は午後になって突然強くなり、川の水位は瞬く間に上がった。
普段であれば、夜明け前を思わせる澄んだ藍色の水が穏やかに流れ、川面はまるで星が瞬くようにきらめいている。しかし今の天の川は荒れ狂う土色の竜だった。足を踏み入れたものを容赦なく押し流し、近づく者さえ飲み込んでしまいそうな貪欲さをむき出しにしている。

彦星は少し前に危険な岸辺を離れ、竜が吼える声に耳を傾けている。
足元にたたきつけられる雨もまた、バシャバシャと激しい音を立てて水浸しになった土を跳ね上げていた。
彦星は雨具を何も身に着けていなかったが、もとよりそんな物を身につけていたところで役に立つはずもない。
一度濡れてしまえば特に気にもならず、時おり顔を天に向けて雨の勢いを顔面で確かめていた。

「川を渡るのは無理だな」

彼は自分の中ではっきりと結論づける。
憂うように瞳を閉じたが、再び目を開いた時にはなぜかそのことを喜ぶような表情になっていた。

「仕方ない、家で温かいお茶でも飲むか。その前にまず風呂だな。……この雨がシャワーにならないかな?」

空を見上げた彦星の顔が、まるで少年のように輝く。
自分の思いつきを実践しようと、いそいそと鎧を脱ぎ出した。
上半身が裸になると、両手を広げて雨を受け止める。
さらに楽しそうな表情になると、今度はいそいそとズボンに手をかけた。

そこで、ポカリと背後から頭をたたかれた。

「露出狂さん、そこまでよ。私に変態とののしられたくなかったら、それ以上脱がないことね」

振り返った彦星は、雨音に紛れて背後まで近づいた相手を見て、悪戯が見つかった子供のような笑顔になった。

「見つかったか」
「いつまでも帰って来ないから様子を見に来てみれば……。何をしているのよ」
「この雨、もう立派にシャワーじゃないか? 浴びようと思ってさ。織姫もどうだ?」
「それだけ堂々とさわやかにセクハラされたら怒る気もなくなるわね」

呆れたように呟くと、織姫は手にしていたタオルを彦星の肩にかけた。

「せっかく持ってきたけど、すぐに濡れちゃうわね。でもないよりマシでしょ。それをかけておきなさい」
「ありがとう。なあ、水もしたたる美男美女だな」
「何を言ってるの。誰が美男?」
「美女を妻にしている男は、やっぱり美男だろ?」
「調子いいんだから」

くすくすと笑った織姫は、視線を天の川へと向けた。
土色の竜は真っ黒な濁流となって、今にも川からあふれ出しそうになっている。
雨が視界を邪魔してその様子を直接見ることはできなかったが、普段見慣れた川だけに2人は音だけでそれと分かっていた。

「あれを泳いで渡る気だったの?」
「だって、今日は織姫と年に一度の逢瀬を果たせる日だぞ。…………本来は」
「まあ、本来はね」

くるりと身体の向きを返した織姫は、近寄ると彦星の顎に指をかけて引き寄せた。
素直に引き寄せられた彦星は、目の前にある形のよい鼻のてっぺんを軽くついばんだ。
くすぐったそうに笑った織姫が、至近距離にある瞳に向かって悪戯っぽく微笑みかける。

「もし本当に泳いで渡らなければならなかったとしたら、あなたはどうしたかしら?」
「どうしたかな」
彦星は織姫の濡れた髪を指にからませた。
「上流まで歩いて、斜めに泳ぎきろうとするかもな。鳥をかき集めて空を飛ぼうとするかもしれない。魔道を使い果たしても、1秒でいいから川の水を凍らせようとするかも。確かなのは何がなんでも織姫のところへ行こうとしただろうってことだけど、それでも無理だったら……」
「無理だったら?」
「雨がやんだら行くよ」
「年に一度、は?」
「そんな決まりごとなど、糞くらえ。恋にうつつをぬかして仕事がおろそかになる? 知らないよ、そんなこと。俺たちは自分の仕事を全うできる」

彦星の答えを聞くと、織姫はにっこり笑った。

「そう、そんなことにはならないわ。だって私たちにあるのは子供っぽい恋なんかではないもの」
「家族愛だもんな!」
「そして夫婦愛よ」

織姫はくしゃみをすると、彦星からタオルを奪った。
ぎゅっとしぼった後、それで顔をぬぐう。もう一度しぼった後、ふたたび彦星の肩にタオルをかけて彼らがやってきた方角へ顔を向けた。
「そろそろ戻りましょう? シャワーも浴びなくちゃ」
「面倒だから、ここで……」
「ダメよ、もったいない」
「へ?」

彦星がきょとんと瞬きをすると、織姫は口の端に思わせぶりな笑みを浮かべた。
彦星の手から彼が脱いだ服を奪うとステップを踏むように数歩進み、そこでくるりと振り返った。
「誰かに見られたらどうするの! 私は万が一でも、私以外の人にあなたの裸を見せる気はないわ」
「え、それって……」
彦星が答えを探している間に、織姫は家に向かって歩き出す。
しばらくその後姿を眺めていた彦星は、ハッと我に返ると慌てて彼女の後を追いかけた。

「織姫、織姫」
「なあに? 彦星」
「俺、次は女の子がいいな!」
「なに飛躍してんの」

明るく笑う織姫の手から自分の衣服を奪い返すと、彦星はそれを右腕に抱え込んだ。
織姫が自由になった手を伸ばして、空いている左腕にからませる。

織姫の家と彦星の家には2つの家をつなぐトビラが存在しているが、それを使わなくなってからもうずいぶん経つ。

「帰りましょうか、彦星さま」
「そうしましょうか、織姫さま」

2人は顔を見合わせて笑うと、天の川に背を向け、雨の中へと消えていった。





甘々だな!!
事前に注意を入れた方がいいんじゃないかというほどの甘々で失礼しました。
二度目になりますが、これはパラレルです。 夢みたっていいよね…
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2009/07/09 23:28 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

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