続き。
場所はトランです。
坊(レン)、ゲオルグ、5主(セイリーク)、リオン
場所はトランです。
坊(レン)、ゲオルグ、5主(セイリーク)、リオン
「なかなか賑わっているようだな」
「そうですね。今日は外国諸国からも来賓が多く来ておりますから」
「ああ。先ほど群島の者も見かけた」
「お話なさってましたね」
「元提督とは知り合いだからな、その関係で少々」
「顔がお広い…」
「だから本当はあまり来たくなかったんだが」
「はは、正直言うと僕もです」
レンとゲオルグは会場の片隅でひっそりと立ち話をしていた。
どちらも仕方ないと分かってはいるが、もともとあまり乗り気ではない。
いくつかの社交辞令を交わした後はそそくさと目立たない壁際へ退散していた。
カナカン産のきついワインを水でも飲むかのように消費しながら、旅の話や戦いの話など、およそパーティーに似つかわしくない会話を楽しんでいた。
兎を丸焼きにしたら頭から食べるか尻から食べるかを論じ、クレオから聞いた最近グレッグミンスターで人気のケーキ屋の話へと話題が移った時だった。
「ゲオルグ様!?」
突然の鋭い声に、レンとゲオルグは2人揃ってさっと声の主を振り返る。
そこには、黒髪に黒衣をまとった女性が立っていた。
祝いの席に黒といっても暗い雰囲気はない。
髪をまとめている飾り紐と内衣の鮮やかな桃色が華やかな空気をかもし出していた。
すらりと整った体型は細いが、なよやかさやたおやかさは感じられない。優しい雰囲気は漂わせているものの、ひきしまった身体と抑えた気配は明らかに武人のそれ。
一瞬でざっとそれだけを見て取ると、レンはちらりと横を伺い見る。
「お知り合いですか?」
「ああ。……驚いたな」
小声で会話を交わす間にも、女性はずんずんと近づいてきた。
そしてゲオルグの目の前で立ち止まると――――…いきなり襟元を掴みあげた。
ざわ、と周囲がざわめく。
「どこに行ってらっしゃったんです!?」
「あのな…」
「探したんですよ!?音沙汰が全然ないからすごく心配して…!」
ゲオルグがなだめようとするが、いきり立つ女性は手を緩めることがない。
遠巻きに眺めている人々の間から「色恋沙汰か?」とささやく声が聞こえてきてレンは眉をひそめた。
この人が誰で、どういう関係だったのかは分からないが、この状況はまずい。
ゲオルグから引き離そうと、その華奢な肩に手をかけようとした時だった。
「リオン」
短いが、よく通る声。
その瞬間、女性はぱっとゲオルグから離れて直立した。
この女性の名か、と思ったレンはその声の主を探して振り返る。
同時にすぐ背後でゲオルグが息を呑むのを聞いた。
「閣下!ゲオルグ様が――…!」
「分かってる。でもこの場でそれはまずいでしょう?」
「あっ!」
言われて初めて自分のいる場所を思い出したのだろう。リオンと呼ばれた女性は慌ててあたりを見回すとかあっと頬を染めた。
あまりにも素直な反応にレンは思わず微笑んでしまう。
そして視線をこの場を収めた青年へと向けた。
閣下と呼ばれた人物は、まだ若かった。
レンは素早く頭の中の招待客リストと照らしあわせてみる。
今日の招待客は、全て頭に入っている。レンが行ったこともない外国からの招待客は結構いるが、見るからに年の若い彼はおそらく28歳と聞いていた彼だろう。従者1名と共に出席…だったはずだ。とすると、この女性が従者か。
レンは素早く風貌を確かめた。28歳と聞いてはいるが、すらりとした長身に涼しげな目鼻立ちの彼はそれより少し若く見える。トランでは珍しい銀髪だ。肌の色も含めて全体的に淡い色だが、だからこそ黒を基調とした服はよく映えていた。
少々短めの袖から覗く手は彼の柔らかい雰囲気からすると不釣合いなほどにごつく大きく、武人の手を思わせた。
実際かなりの使い手なのだろう。纏っている気配が他の人間とまるで違う。
青年はまっすぐに歩み寄ると、ゲオルグではなくレンの前に立った。
手のひらを胸にあてると軽く礼をとる。意外に思いつつもレンも動じることなくそれに応えた。
「お初にお目にかかります。ファレナ女王国より参りましたセイリーク・ファレナスと申します。今宵はファレナ女王の代理として参りました。以後お見知りおきを」
「レン・マクドールです。私はトランの執政とは無縁の身ですが、一国民として来国を歓迎いたします。ファレナの女王騎士長殿」
「執政に無縁とはこちらも同じこと。お目にかかれて光栄です、マクドール殿」
「こちらこそ。これを機にトランとの友好を深めてくだされば幸いです」
「それは私からこそ申し上げたいことです」
彼はそこで顔を上げるとちらりとレンの横を見た。
穏やかな笑みながら、その瞬間に瞳がぎらりと光ったのをレンは見逃さなかった。まるで獲物を見つけた肉食獣のような童猛な目だ。
傍目にはふわりと人目を惹きつけるような笑みを浮かべながら、遠国からの使者はゆるりと身体の向きを変える。
ひたとゲオルグを見据えたまま、形だけは優雅に礼を取った。
「お久しぶりです、ゲオルグ・プライム殿。ご健勝そうで何より」
「……貴殿も」
珍しく歯切れの悪いゲオルグの言葉と2人の間に流れる空気に、レンは覚えがあった。
2人の顔を交互に眺めると、やおらにこりと笑う。
「閣下、リオン殿、それにゲオルグ殿。貴殿達はどうやらお知り合いのようだ。折角ですし少しお話でもなさっていかれては?休憩に丁度よい部屋があります。……完全防音の」
「…レン?」
「それは嬉しい。ご案内いただけますか」
思わせぶりに付け足された最後の言葉にゲオルグが不審の念を抱くより先に口を開いたのはセイリーク。穏やかな口調で返事をしながら、再び傍目には分かりにくい童猛な笑みを見せた。
……女王騎士エンド見てないってのに(苦笑)
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