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薄れゆく
ちょっとだけ。
雰囲気重視の短いSSです。初アトリさまで、ちらっと星屑団長。
着替えイベント後。


※団長のお着替えイベント後/アトリ


息が止まるかと思った。
あの人の名前を、もう少しで叫ぶところだった。


「お~~~い! アトリ?」


自分の名を呼ぶ声。
それで――気づいた。 分かってしまった。

あの人にそっくりの鎧を着た彼が、何者なのかを。
あの人のいた世界が、どうなってしまったのかを。


自分はあの人に――もう二度と、会えないということを。



 *********



『探してみようって思わないの?』
『そりゃ、思うさ』

あの人は空を見上げて眩しそうに目を細めた。
どこか遠くを見つめる目。
なにかを懐かしむような表情はとても優しくて、アトリはそんな彼の横顔をぼんやりと見上げていた。

『今は無理だが、一段落したらいろんな世界を回ってみるつもりだ』
『息子さんを探しに?』
『ああ。……でも』

あの人が、顔を戻す。
見上げるアトリの表情に気づくと、ふわりと笑った。

『まずは、お前の世界へ行きたいな』
『ぼくの?』
『ああ! だってアトリがいる世界だろう? 俺が気に入らないはずがない』
『…ほんとに? 来てくれるの?』

ぽん、と、あの人の手がアトリの頭に乗る。
剣ダコの出来た、硬くて、大きくて、温かい手が。

『もちろん、一番に行くさ。 案内してくれるか? アトリ』
『う、うん! うん!!』

何度も頷くアトリの頭をくしゃくしゃにかき混ぜて――
あの人は楽しそうに、笑って、いた。



 *********


「……うそつき」

ぽつり、と小さく呟いてみる。

彼がこの世界へ来たら、と何度も何度も考えた。
この城を案内したいと思っていた。
仲間に紹介したいと思っていた。
絵の上手な仲間がいて、彼が団旗を描いてくれた。あの人ならきっと感心してくれただろう。
今アトリがいる自分の部屋へ彼を招待して、一緒にお茶を飲んで。
そして裏庭にある訓練用の広場で、手合わせを申し込んでみるのだ。
もらった剣をだいぶうまく使えるようになったから。

「(……まずは僕の世界、って言ってたくせに)」

あの人は消えて――あの人の記憶は、別の世界に現れた。
アトリのいる、この世界ではなく。

あの人が初めて訪れた異世界は、リードァのいる世界。

一体何度、リードァの持っている書に手を触れてみたことだろう。
あの人の声を、姿を、確かめたくて。もう一度だけでも見てみたくて。
リードァはアトリが頼むたびに、毎回素直に触らせてくれた。無駄じゃないかなんて、一度も言わなかった。

でも、いつだって結果は変わらなかった。
異世界から来た人間に、その世界にある書は読めない。
その世界で星を宿す者ならば見聞できることが、自分にはできない。


そして。

次第に面影は薄れていく。


「…~~っ」


会うたびに、あの人の顔はリードァの面影に塗りつぶされていく。
あの人の声が、次第にリードァの声に上書きされていく。

確信していた。
いつか、思い出の中のあの人はリードァの姿で現れることになるだろう。
どんなに大切な記憶だって、それをその時の形のまま留めておくことなど出来ないのだから。

あの人は、きっとそれで良いと笑うだろうけど。
自分は――あの人自身も、覚えていたいのに。







『ねえ』
『ん?』
『息子さんに会えたら、僕にも紹介してね』
『ああ。仲良くしてやってくれたら嬉しい』
『もちろんだよ。年も同じくらいなんでしょう? 楽しみだな』
『そうだな。……楽しみだ』



遠い約束。

でも、それは、アトリの世界にあの人が来た後のこと――の、はずだった。






アトリ⇒TK団長は、友情・嫉妬などいろんな感情が混ざっているといい。
だからこそ、それを隠して良い子の仮面をかぶってる。
アトリ⇒星屑団長は、純粋に敬愛です。4主⇒グレン団長の感情に少し似てる。
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2009/04/24 10:12 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

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