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石の砦の深夜の酒場
幻水1軸で、ミリアとクレオ。





そろそろ日付が変わろうかという時刻。戦いの余韻に身を浸す男達が毎晩やかましく飲み騒ぐ酒場といえども、この時間帯ともなると人は少なくなる。訓練は近隣の平地や隣りの無人島で行うが、移動は全て早朝に湖面を覆う朝霧の中で行われるからだ。
だが、逆にこの時間帯を狙って酒場にやって来る者も少なくない。静かに飲むことを目的とする場合がほとんどだが、その一人であるクレオは壁側の席に座り、低い声でさざめく者たちを見るともなく眺めながら、グラスの中の琥珀色をした液体をゆるりと揺らした。

「はあ……」

静かな溜息が落ちる。ふと、それが自分の声ではなかったことに気がつき、グラスを持ったまま首をめぐらせた。
5つほど空席を挟んで座っていた女性は、視線に気付くと左を向き、クレオを認めて恥らうように目をふせた。しかし、すぐに顔を上げると照れたように軽く手にした杯を掲げてきて、クレオは小さく笑うとグラスを掲げ返した。

「遅いですね」
「そちらも」
「静かに飲みたかったので……」
「この時間はそういう人が多いでしょう。私もですよ」

当たり障りのない会話を交わした後、沈黙が流れる。少し迷った後、クレオはテーブルの上にグラスを置くと椅子ごと身体を右に向けた。
「何か、気にかかることでも?竜洞から出てきていただいてることは気になってましたので、私で手配できることならしますが……」
クレオ自身はそれほどの要職にあるわけではないが、レンの傍にいる彼女は初期からのメンバーでもあり軍内で要望があればそれを上に伝えることが多い。解放軍には女性も多くいたが、女性特有の問題や相談に関しては、特にクレオが仲立ちとなることが多かった。

ミリアは慌てたように首を振った。
「お気遣いなく。…申し訳ありません、やはり聞こえてましたね」
「いえ、こちらこそ余計だったようです。失礼致しました」
「ええ……あの、クレオさん、よろしければ一緒に飲みませんか?」
「喜んで」

5つ席を挟んで会話していた2人は、それぞれ席を移動するとちょうど中間に隣りあって腰掛けた。クレオの麦芽酒とミリアの蒸留酒を交換し、それぞれ新しい酒を注ぐ。
目を細めて数口を喉へ流し込んだミリアが、ふうと溜息ではない息を吐いた。

「クレオさん、ご兄弟はいらっしゃいますか?」
突然かけられた言葉に、クレオは首を傾げた。簡単な問いだが、少し難しい。ミリアからもらった蒸留酒を一口飲むと、静かにグラスを置いた。
「実家は、姉妹しかおりませんでした。ただ、大きな声では言えませんが弟とも思っている人はいますね」
「……レン様でしょうか?」
「そうですね……」
含みをもたせた口調に、何かを察するところがあったのだろう。ミリアは慌てたように頭を下げた。
「申し訳ありません、今のはなかったことにしてください」
「ああ、いえ、いいんです。こちらこそすみません。ミリアさんもあの場にいたんですものね」
「…………」
「レン様と、テッドくん。2人が私をどう思っているかは分かりませんが、私は弟のように感じています。……それより、どうかしたのですか?フッチくんに何か?」
「……分かりますか」
「貴女と私は、そういう意味で少し立場が似ていますからね。私でよければ聞きますが?」
「ええ…」
ミリアは俯くと、小さな杯を両手で包み込んだ。
「……フッチにかける言葉が思いつかないんです。以前はいろんなことを話してくれたのに、今は何を話しかけても『大丈夫です』しか言わない。レン様には、ブラックのことを話していたようなんです。……あの子は竜洞を出された身。竜騎士の私が側にいることは苦痛なんじゃないかと……」
「…分かります。いえ、こういうことを言うのは失礼だと分かっているのですが、分かります。……ふふ」
「?」
「失礼。本当に、貴女と私は立場が似ているようですね。私もそれで飲んでいたのですよ」
クレオは小さな笑みをみせた。
「竜洞から帰ってきてから、レン様は私とほとんど話をしません。彼は立場がありますし、気にしていなかったのですが……フッチくんとテッドくんの話をしてたと聞いて」
「…あ」
「姉のような存在と思っていたのですがね」
「……同性の、年の近い子の方が話しやすいんでしょうか」
「頼って欲しいと思うのは……我がままなこと、なのかもしれません」
「そうかもしれませんね……」

2人は顔を見合わせると、ふっと小さく笑いあった。

「フッチに、レン様がいて良かった」
「私も……フッチくんがいてくれて良かった。彼らが背負ってしまったものは重いけど、せめて重荷を分け合えるよう、私達はここで祈っていましょうか」
「お酒でも飲みながら、ね」

かちりと。
グラスと杯がしずかに合わせられた。

「私達の、”弟”たちの幸せを祈って」
「そして私達の幸せも祈って」
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2007/07/10 01:47 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

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