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木漏れ日の中で
幻水2軸で、レンとフッチ。




同盟軍の本拠地であるほうざん城は、元々ある街を改築したものだから、建物自体は古い。それは城の周りに生えている木々も同様で、中庭には黒々とした太い幹を持つ立派な大木が群生していた。
大きな木々は戦時下にある人々の心をなごませ、その下には様々な者が集う。だが、木の”上”となると話は別で、戦生活が長くなるにつれ、それぞれ何となく縄張り…というか、その木を「お気に入り」する者が現れていた。とは言っても大人はあまり木の上に登らないし、子供が木登りするには最初に枝分かれしている位置が高すぎる。結局ほとんどは軍主の避難所兼休憩所と化し、残りのほとんどは隣国の英雄が人を撒くのに利用するばかりだったが。宿星達のなかにも、とある木の”上”を愛用している者がいた。

城から最も離れた位置にある、城壁の近くにそびえたつ木の上で、フッチは足をぶらぶらと遊ばせていた。この城が抱える幾多の悲劇を乗り越えたその木は枝が多く葉は大きく、城壁と頭を並べることの出来る高さまで登ってしまえば下から見上げても姿を隠してくれる。
この城へやって来て一通り探検してみたフッチが目をつけた木だ。
ここは、中庭といえども城からの距離があるためか、他の人がやって来たことはない。城壁の上からは姿が見えるから時々チャコが飛んでくるが、大抵においては静かに過ごせるお気に入りの場所だ。

高さゆえに広大なパノラマを眺めることが出来たが、フッチはその絶景を堪能していない。景色を楽しむために木登りをしているわけではないからだ。

枝をまたいだ足をぶらぶらさせながら、フッチは背後の幹にこてんと背中をくっつけた。
視線の先にあるものは、いつもと同じ。
そのままぼんやりしていたが、ふいに両手で枝を掴むと、身を乗り出して下を覗き込んだ。

「あ、気付いた」
「……レン?」

いつの間に登ってきていたのか、フッチより少し下の枝にレンが手をかけて見上げてきていた。行ってもよいかと目線だけで促され、反射的に頷いてから慌てて左右を見回す。

「ごめん、この辺枝が細いから危ないかも」
「そこまでは登らない。――よっ、と」

軽い掛け声をかけ、飛び上がるようにしてフッチの一つ下の枝に移ったレンは、腰を下ろすと辺りを見回した。先ほどまでフッチが見ていた方向に目を留めると、すっと表情が変わる。なぜかフッチは慌てた。
「あ、あのさ、俺、別に」
「ここから見えるんだな」
言い訳じみた言葉は、レンの言葉にあっさり封じ込められた。
黙り込んだフッチを見上げたレンは、彼が軽く唇をかんでいるのを見て表情を和らげる。
「……邪魔だったか?」
「! ううん、全然!」
首を勢い良く左右に振ると、レンはにこりと微笑んで視線を前へ戻した。
風に吹かれてゆるやかに揺れるバンダナの端を、フッチはぼんやり見下ろした。

「レン、どうしてここに?」
「ここって、デュナンのことか?」
「あ、じゃなくて、この木。登ってきたの初めてだよね?」
「ああ。……フッチと同じ理由、でいいかな」
「…………覚えてたんだ」
「当たり前だろう」
即座に切り返したレンは、小さな声で付け足した。
「同じ日、だしな」
「……うん」
「それで、フッチの顔が見たくなった。…感傷的だと笑っていいぞ」
「笑わないよ。オレもそうだし」

顔を上げると、はるか遠くにうっすらと蜃気楼のように見える影に向かって、フッチは目を細めた。レンが同じものを見ているのは分かっている。
あまりに遠すぎて陽炎のようだが、あの山脈の向こうにはトラン共和国が広がっている。彼らにとっては生まれ故郷だが、そこへ至る境界線である線はいかにも頼りなく、祖国はまるで幻のようだった。
いや、実際、幻でもある。喪われた思い出の眠る、場所。


無言になった彼らの間を、また一つ、風が通り抜けた。
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2007/07/23 01:03 | Comments(1) | TrackBack() | 二次創作

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きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていたイリクは、中庭の池のほとりに転がっている二人を見つけて駆け寄った。

「シーナ!ルック!」
「お、どーした?イリク」

駆け寄ったものの、相変わらずきょろきょろしているイリクの足元から声をかけたのはシーナ。
大木に寄りかかっていたルックは読んでいた本からちらりと目を上げてイリクを見ただけで何も言わない。

「レンは?一緒かと思ったんだけど」
「ああ」
曖昧な返事をしたシーナと、側にいたルックの視線がついと宙へ向けられた。
2人の視線を追ったイリクは、その先に1本の大木を見つける。
大きな枝を張ったその木は、葉に隠れて上の方まで見通すことは出来ないが。

「あの上?」
言いながら駆け出そうとしたが、直後すてーんと顔から転がった。
転ばせたシーナは、伸ばした片手でイリクの足首を掴んだまま相変わらず寝転んでいる。イリクが額をこすりながら芝生の上に座りこむと、意図を読み取らせない曖昧な笑みを浮かべて手を放した。

「何すんだよっ!?」
「……レンに何の用なの?」
シーナへの文句に応えたのは、少し離れたところで本に目を落としたままのルック。
髪の毛から芝生を払い落とすと、イリクはそちらへ視線を向けた。
「ご飯に誘おうと思って」
「放っとけ」
「食べたきゃ勝手に食べるでしょ」
顔も向けずに、即座に2人から言葉が返ってくる。
「……なんか、都合悪いの?」
「「別に」」
2人の声が揃い、イリクはむうと膨れた。
まったく性格の違うこの2人は、本当に時々、同じ反応を返す。
といっても、彼らが気が合うとか似ているとかではない。それは全くない。
ただ単に、レンを理解しているから、レンに対する反応が同じになるというだけのこと。
イリクにとっては、それが何となく面白くない。過ごした時間が長いことは分かるし、当時レンの軍にレンと同い年くらいの少年は彼ら3人くらいだったことも知っている。
だから仕方のないことかもしれないが……それにしたってズルイ、と思うのは勝手だろうか。自分だって、知りたいと思っている。仲間というより友達になりたいと思っているのに。

シーナが声を出さずにうっすらと笑い、心の中を読まれた気がしてイリクは少し赤くなった。誤魔化すように視線をそらすと、件の木を見上げた。
「……何かあるの?あの木の上に」
笑みを消したシーナが、腕を枕に仰向けに寝転がる。イリクの視線を追うと瞼を閉じて、吐き出す息と共に「フッチ」と一言告げた。
「フッチ?」
「行くなよ」
「……俺が行ったら邪魔?」
「多分な。俺でもルックでも邪魔」
「…………2人も?まさか」

イリクの驚きに、2人はまた同時に笑った。
シーナは瞳を閉じたまま小さく、ルックは本に目を落としながら鼻を鳴らして。
「あいつらには、あいつらだけしか分からないもんがあるんだよ」
言葉の意味は分からなかったが、シーナの表情をじっと見つめた後、イリクは黙って頷くと並んで仰向けに転がった。お?というようにシーナが顔をこちらに向けてくる。
「俺も一緒に待ってる」
「一緒に?」
「2人は、待ってるんでしょ。レンが降りてくるのを」
「べっつに、待ってねーよ」
「シーナと一緒にしないでよね。本を読むのに丁度いいからここにいるだけだよ」
「そうそう。昼寝をするのに丁度いいからここにいるだけ」
「ふぅん?じゃあ俺は、レンを待つのに丁度よさそうだからここにいよっと」

どうぞお好きにーと返ってきた言葉を聞き流して、イリクは寝転がったまま、幹の黒いその大木を見上げた。
posted by ノダat 2007/07/23 01:32 [ コメントを修正する ]

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