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星屑3章の裏側
twitterってどうすんの。なんか放置しそうで怖い……とブツブツ言いながら登録してみました。
読書メーターとの連動につられただけですが、2日目にして読書メーターで充分なんじゃね?と思い始めてるところです。あー、でもマンガの感想が書きやすいかなあ。
そんな感じですが、こちらになります。よろしければ。

今はもっぱら十二国記のことばかりですが。
だって新作…!!! 個人的にすごくツボに入って、ごろんごろん転がってました。

テンションが上がったついでに、星屑裏側シリーズ。まさかの2日連続……
この先、ぱったりとペースが落ちると思います(笑)。


というわけで、星屑の裏側シリーズ、今回は第3章から。
ガレガドとブランシュとベレクです。
ベレクを書いてる人は他にいるまい(笑)。需要低いにも程がある…



裏側シリーズ:第3章


「やあ、お疲れ」
デンベーンの港に戻ったトッシュたちを、生真面目そうだがどうも印象の薄い男が出迎えた。
「よお、団長! いま戻ったぜ!」
「ただいま、ベレク」
桟橋に降り立ちながら、ガレガドとブランシュが快活にあいさつする。

ベレクと呼ばれたこの男こそ、デンベーン自警団の団長だ。町長の息子でもある。息子と言っても、トッシュの父親と同世代の立派な中年だが。
「トッシュ君もお疲れ様」
「あ、うん……」
ベレクにふにゃりとした笑顔を向けられ、トッシュは思わず口ごもった。
  ・
  ・
  ・   
「今回も、即時釈放かい?」
「ヤキは入れたけどね」
「おまえが捕まえて来るなって言ったんじゃねえか」


(第3章「海賊」その1 より)

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デンベーンは、昼と夜とで街の人口が異なる。
空が朱に染まり、港に篝火がたかれ始めると、その灯りを目指して船が次々に帰港し始める。
港を出た人々は海上でそうするように声高に会話しながら街灯に照らされた大通りを歩き、ある者は自宅へ、ある者は急いで商店へ、またある者は気が合う者同士で食事を取るために散っていく。

喧騒の中、ブランシュは自分の名を呼ぶ声を聞いたような気がして足を止めた。
あたりを見回すと、案の定こちらへ手を振りながらやって来る男の姿が視界に入る。
ブランシュたちの方へ、大通りを斜めに横切ろうとして何度か通行人にぶつかり、そのたびにぺこぺこと頭を下げて謝っていた。

隣で足を止めたガレガドもブランシュの視線を追い、「おっ」と野太い声を上げた。
「団長じゃねえか。…相変わらず鈍くせえなあ」
「コラ」
「んだよ、ほんとのことじゃねえか」
そう言いながらも素早く身体の向きを変え、彼に向かって歩き出す。
するすると敏捷に人を避けながらやって来る2人を見て、ベレクはほっとしたようにその場に立ち止まった。


「本部で伝えようと思っていたんだけど、もう帰ったというから慌てて追ってきたんだよ。勤務時間外だというのに悪かったね」
ベレクは2人を食事に誘うと、落ち着いた雰囲気の店へと連れて行った。
特に予約していたわけではないようだが、店の者と二言三言話した後、一行は2階にある個室へと案内される。
店員が去ると、まだ席に着かないうちに2人に向かって微笑んだ。

「ぜーんぜん。ベレクと食事すんのも久しぶりだしね」
「それにお前が誘ったんだから、ここの飯は奢ってくれるんだろ? ……いてっ!」
「あんたは一言多いんだっつーの」
「だからって足を踏むこたねえだろが! てゆーか、すげえ重かったぞ、今。お前体重増えたんじゃ……」
「一言多いって言ったばかりでしょうが!!」
「いってえっ!」
目の前で騒いでいる2人を眺め、ベレクはにこにこと笑った。
「2人はいつも元気だねえ。わかってるよ、今日は私が奢るから好きなだけ食べて」
「やりいっ!」
「ほんとにいいの?」
「いいよ」
「…ありがとう!」
照れたように笑ったブランシュに、ベレクは人の良さが丸出しの笑顔で応えた。

彼はデンベーン自警団の団長である。ガレガドやブランシュの両親と同年代だが、親子ほども年の離れた2人に対等な口をきかれても彼が気分を害した様子は見られない。
町長の息子でもある彼は、覇気がないだの凡庸だの言われているだが、温厚で穏やかな性格は団員たちからそれなりに慕われていた。長老たちの言いなりではあるものの(そういう従順さがあるからこそ団長に選ばれたわけだが)、団員をないがしろにすることは決してない。誰かが問題を起こした時は困ったような笑顔を浮かべながら矢面に立って叱責を浴び、しかも誰かに当たることもなかった。
奔放すぎるがゆえに長老たちから疎まれがちなガレガドはそんなベレクを歯がゆく思うことも多いようだが、逆に守ってやらねばという気持ちにもさせられているらしい。一度ベレクが海賊取締まりの船に乗ろうとした時はなんのかんの言いながら彼の側を離れず、常に背中でかばっていた。やたら軽口を叩くのも馬鹿にしているというより愛情表現の一種なのだろう。

4人分の料理を注文すると(ガレガドが2人分だ)、彼はいつもの少し困ったような笑顔になった。
「本当はトッシュ君もいると良かったんだけど」
向かい合った席についた2人の頭が、同意するように上下に動く。
ベレクから食事に誘われた時から、2人ともずっとそれを思っていたのだ。
でもなあ、とガレガドが眉をしかめた。
「あいつ、仕事が終わるなり走って帰っちまったしなあ」
「今日は少し早く港に着いたからね。農場の手伝いに間に合うかもしれないって」
ブランシュの言葉に、ベレクの目が丸くなった。
「家の手伝いもしてるのかい? 偉いなあ。私には真似できそうにない」
「団長の真似だってオレにゃできねえよ。じいさん連中の相手なんて頼まれてもゴメンだぜ」
「長老たちだってあんたの相手はしたくないでしょ」
「なんだとぅ!?」
ガレガドの眉が吊り上がる。
それをまあまあとなだめてから、ベレクは2人の顔を順番に見つめた。
「じゃあ、2人からトッシュ君にも伝えておいてくれるかな」
「任せとけ! …って、なにを?」
「うん。食べながら話そうか」

ベレクが本題に入ったのは、メインの料理を食べ終わる頃だった。
それまで、主にガレガドが海上での話を面白おかしく話して聞かせ、時々ブランシュが横槍を入れていたが、うんうんとうなずきながら楽しそうな顔で話を聞いていたベレクは、口元をぬぐった布巾を丁寧にたたみながらさり気ない口調で切り出した。
「明日は、君たちは囮船の方だよね?」
現在のデンベーン自警団の仕事は、大きく商船の警護と囮船による海賊の取り締まりの2つに分けられる。
商船の警護は言葉通りの意味。囮船による取り締まりとは、商船に偽装した船に自警団員が乗り込み、わざと一隻で航海して海賊を誘い出す仕事であった。こちらの方が海賊と戦闘になることが多い。
ガレガド、トッシュと組んでいるブランシュのチームは自警団の中でも一番の戦闘力を有するため囮船の方が多いが、今日は商船警護の任についていた。
だが明日からしばらくは、ベレクの言う通り囮船に乗り込む予定である。

ガレガドがニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「ああ! 任せてくれ、たくさんふん縛ってくるからよ!」
「……それなんだけど」
ベレクは小さく息を吐き出した。

「追い返してくれないかな」

「は?」
「どゆこと?」
2人がそろってきょとんした顔になる。
反対に、ベレクはいつものような――いや、いつもよりずっと困ったような表情になった。
「……今日捕らえた海賊は、全員罰金刑になって先ほど釈放された」
「え!?」
「なんだって!?」
驚いたように叫んだ2人の表情が、さっと変わった。特にガレガドの顔がみるみる険しくなっていく。
捕らえた海賊のことなら、港にいた仲間から聞いていた。
「あいつらかなり強盗をくり返してやがってたんだろ!? 団員に怪我人だって出てんじゃねえか!」
「しかも罰金て、そんなの奪った中から返すだけでしょ? 埋め合わせにまた強盗するかもしれないよ!?」
「わかってるよ。わかってるんだけど……足りなくなったんだ」

ブランシュがハッと口をつぐむ。真剣な表情で宙を睨むと、指を折り始めた。
「3日前、刑期の短い人たちの部屋を合同にして牢屋のスペース空けたよね? あれで確か、えーと…」
「…9人。9人の余裕ができた」
「え!? 3日でもう9人が埋まったのか!?」
ベレクは力なく首を振った。
「2日だよ。昨日の時点で、もういっぱいになっていたんだ」

「マジかよ……」
「……ちょっと、異常だね」
ブランシュの声が低くなった。
「西の大陸で何かあったのかな。長いこと続いてた戦乱がようやく終わりそうだって聞いてるけど、関係があるのかな」
「それについてはブランシュのお父上にも情報収集を頼んでる。やはり商人が一番情報を持っているからね」
「それで、捕まえるなって? でもよ……」
不満げなガレガドに目をやると、ベレクは唐突に頭を下げた。

「頼むよ。本部まで連れて帰られると、どうしても裁判をしなくちゃならなくなる。その余裕もないし、牢屋が空いてない以上軽い刑で釈放するか、…極刑しかないんだ。しかも今日は乗り切ったけど、明日になったら長老たちから勧告が来てしまう。厳格をもってのぞむべし、と」
「そんなの無視すりゃいいじゃねえか」
即座に切り返したガレガドの横で、ブランシュはますます難しい顔になった。
ベレクは温厚で良い人だが、長老たちの決定には逆らえない。この年までそうして生きてきて、それで団長にまでなったのだ。どんなに嫌でも従わざるを得ないだろう。そして、厳格に――とは、つまり捕らえた海賊に対しては即刻極刑を言い渡せということだ。

「……追い返すしかなさそうだね。どれだけ効果があるかわからないけど」
ブランシュの視線を受けて、ガレガドも苦い顔になって腕を組んだ。
先ほどはとっさに言い返してしまったが、彼とてベレクが長老を無視できないことはわかっている。
ここで彼が長老にそむいたら――退任させられたうえに、新たに長老の意向に従順な者が任につくだけだ。

「……頼めるかな」
気弱そうに声をかけてきたベレクを見つめ、ガレガドは低い唸り声を上げた。
道は、一つしか残されていない。
ベレクは気が弱いし腕もからっきしだし長老の言いなりだし自警団の団長としては頼りないことこの上が――退任させるわけにはいかないのだ。

海の治安を乱す海賊は捕らえるべきだ。
ただし裁判の上で罪状に応じて刑を科すべきで、無条件に極刑として良いものではない。
彼らにも様々な事情がある。やむにやまれぬ理由によって心ならずも手を染めた者もいるし、反省して改心する者もいる。
およそ人を傷つけ、また命を奪うという行為を決めることは、たとえ海賊に対してでも慎重であるべきで、捕らえた端から殺していくのでは、自分たちも海賊と変わらなくなってしまう。

そんな、人として当たり前の道理を心得ている団長を、失うわけにはいかないのだ。
――それを見失っている者が日に日に増えている、今のデンベーンにおいては。

「……仕方ねえ、か」
ぼそりと呟くと、ベレクがほっとしたように息を吐いた。
「できれば、デンベーンにはもう近づきたくないと思ってもらえると良いんだけど」
「ヤキ入れるのは構わねえってことか」
「君たちなら、必要以上も以下もなくできると思うからね」
「おうおう、信頼してくれてんなあ。…よっしゃ、任せとけ!」
力強く胸を叩いたガレガドの横で、ブランシュは心配そうに眉をひそめた。
「でもベレク、大丈夫? 捕まえてこないとなったらまた長老連中がうるさいんじゃ……」
「自警団としての責務は果たしてることになるから大丈夫だと思うけど……」
彼の眉が下がる。困ったような笑顔になりながら、でも、と呟いた。
「問答無用に皆殺しは……嫌だからね。お叱りを受けるのは慣れてるし」
少し間をおいてから、さらに困ったように付け加えた。
「……いつまでもつか、わからないけど」

「頼りがいがあんのかないのか、相変わらずハッキリしねえなあ」
ズバズバと本音を言いながら、ガレガドが苦笑した。
「まあ、こっちは頑張ってみるからさ。ベレクも頑張ってよ」
ブランシュの言葉に、ベレクは「そうだね…」と力なく微笑んでスプーンを手に取る。
話をしている最中に運ばれてきたデザートのシャーベットは、半分溶けかかっていた。

それをすくって口に運びながら小さく呟く。
「海賊が、いなくなってくれるといいんだけど……」
「ああ」
「そうだねえ」
ガレガドやブランシュも同意を返し、それぞれスプーンを手に取った。



海賊が、いなくなってくれればいい。
海の平和が戻ってくればいい。
この時の3人は、――ベレクも、本気でそう思っていた。


だが、それは『死ねばいい』という意味ではなかった。


――なかった、はずだった。
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2009/09/27 00:59 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

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