これから私事がかなり忙しくなりそうで、7月末までブログ以外の更新は滞ると思います。
ごめんなさい。ネタがあったらブログで更新していきます!
というわけで早速、共演軸でSSをひとつ。
坊(レン)と4主(カイト)。 冒頭の数行のみ、+腐れ縁。
昨晩から書き始めたので、ノリ的にしんみりしてます。
あと、うちの坊は笛を吹く人という設定がありまする(あまり出て来ないけど)。
それを踏まえた上でどうぞー
ごめんなさい。ネタがあったらブログで更新していきます!
というわけで早速、共演軸でSSをひとつ。
坊(レン)と4主(カイト)。 冒頭の数行のみ、+腐れ縁。
昨晩から書き始めたので、ノリ的にしんみりしてます。
あと、うちの坊は笛を吹く人という設定がありまする(あまり出て来ないけど)。
それを踏まえた上でどうぞー
酒の入ったグラスに口をつけようとしていたフリックが、手を止めて顔を上げた。
何かに耳を澄ますように首を傾けていたが、ビクトールとレンからの視線に気づくと、照れたように小さく笑う。
「――あいつの好きな曲だ、と思って」
そうか、と静かに相槌を打ったのはビクトール。
レンは何も言わず、フリックの視線を追って頭をめぐらせた。
酒場の隅で、喧騒に溶け込むように、珍しく気配を殺したピコが静かにギターの弦を弾いていた。
***************
愛葬歌
カイトは、レンが曲を吹き終えるのを待って彼の背中に近づいた。
「レン?」
呼びかけると、崖の端に座っていたレンが振り返る。
カイトを見てちょっと驚いたような表情になったが、笑顔になると自分の横へ手招きした。
「よく僕の居場所が分かったな」
「笛の音をたどって歩いてただけなんだけど、レンに着いた」
「……そんなに響いていたか?」
小声になった彼に首を振る。
音は、とても小さかった。というよりあまりにも細い音だったので、最初は風の音だと思ったのだ。
微かに聞こえるだけなのに決して途切れず、不思議と心に沁みた。それで風が吹いてくる方向へとなんとなく歩き続けてしまった。その先にいたのがレンだった。
背中が見える距離まで来ても、不思議と笛の音は小さいままだった。
「(絹糸みたい)」
とても細いのに、しなやかな強さを持ち容易には切れない。
細さゆえに遠目には純白に輝く色を見ることはできないが、光を反射するときらりと輝く。
とても美しい、一本の細い糸。
大きな音を出すより小さな音をきれいに出す方がよほど難しいと言う。遠い昔にエチエンヌから聞いたそんな講釈を思い出しながら、カイトはレンの後姿を眺めていた。
音楽に詳しくはないが、曲が終わるまでレンの邪魔をしてはいけないと思ったのだ。
「風が歌っているみたいだったよ」
素直な感想を口にすると、レンは口の端を持ち上げた。
「僕には風を歌わせることはできない。できる奴もいるけどな」
「へえ」
「いつか機会があったら、暇してるルックの側でたぬき寝入りでもするといい」
つまり、レンはたぬき寝入りをしていたわけだ。
いつかの日を思い出したのかくすくすと笑っていたレンは片膝を抱えてあごを乗せた。
「カイトは、知ってる? 今の曲」
「え? ううん。きれいな曲だと思ったけど」
「夏の夜明け前を歌った歌らしい。楽しい一晩を過ごした娘が、家に帰らず海へ向かう。そこで日の出を待ちながら愛しい思いをかみ締めてるって歌」
「…へえ」
「僕らしくもない、甘い歌だろ」
カイトが思ったことをそのまま口にして、レンは低い声で歌いだした。
「わたしは独りじゃない、あなたがそこにいるから。あなたも独りじゃない、わたしがここにいるから。やがて太陽がわたしとあなたを照らし、世界は昨日よりも明るい光に満ちる……」
ふっと歌を止めて、レンは微苦笑を浮かべた。
「なんてベタな歌詞だろうな」
カイトは返事をしなかった。
言葉とは裏腹に、先ほどの歌や口調、そして最初に聞いた笛の音から、この曲にレンが特別な気持ちを持っていることは分かる。
無言のままのカイトの横で、レンは言葉を続けた。
「ある人が好きだったんだ。もっとも、僕はそれを人づてに聞いたんだけど。……彼女の死体は川に流され、葬式も行われなかった。後に形ばかりの墓は作られたけど、そこに彼女はいない。 だから、僕もフリックも彼女の墓参りをしたことはない」
フリックという人のことは名前しか知らなかったが、聞き返すこともせずにやはりカイトは黙っていた。
「彼女の魂はここにある。 ――僕が、棺なんだ」
カイトは思わずレンの横顔を見つめた。
真横からの視線を気にせず、レンは前方に広がる湖を眺めている。
「フリックが、これはオデッサさんの好きな曲だと言った。だから覚えたんだ。棺には、故人の好きなものを納めるだろう?」
「……レン」
「僕は歌はあまり歌わないから、音楽をね」
ようやくカイトを振り返ると、レンはふわりと笑う。
手にしていた笛を、トンと自分の胸に当てた。
「――ここに、納めた」
かすれたような声で低く呟いて、レンは静かに目を閉じた。
************
「……俺が聞いちゃってごめんね」
「何を言う。音楽は人に聞かれるものだ。確かに聞かせるつもりはなかったが、そのうえで誰かの心に届いたとしたら、それは喜ばしいことだ。カイトの心に届いたか?」
「うん。思わずここまで来ちゃったくらい」
「光栄だ」
レンは笛を握りなおすと、それを口元へ持っていった。
「暇ならもう一曲聞いていくといい」
「どんな曲?」
「同じ曲は芸がないからな……」
レンが宙を見上げる。
小さく息を吸い込むと、それをささやき声と共に吐き出した。
「rest in peace。……やすらかに眠れ」
カイトは空を見上げる。
隣から、澄んだ音色が流れ始めた。
PR
トラックバック
トラックバックURL: