満開から少し遅れたお花見。
レン(坊)、シーナ、ルックの3人。
ぼけら~~っとしてます。
レン(坊)、シーナ、ルックの3人。
ぼけら~~っとしてます。
湖の畔、膝くらいの高さで黄色い花が揺れる柔らかな草地の上。
太い幹からは大きな枝が伸び、重力にしたがってゆったりとした曲線を描いて水面に影を落としていた。
頭上には無数の枝が複雑に交差し、その隙間を埋め尽くそうとするかのように小さな花がそれぞれ精一杯空に向かって手を伸ばしていた。
だが、満開というには、少しばかり遅い時期。無数に咲き誇る花びらは自らの重みに耐えきれず、はらりはらりと枝からこぼれ落ちては微かな風に乗って湖面へと運ばれてゆく。
岸辺に座った3人は、背後の立派な太い幹も、頭上で咲いている花も、彼らの周囲で可憐に舞う花びらも見ていなかった。
ぼんやりとした視線が捉えているのは目の前の湖面。
枝からこぼれ落ちた薄桃色の花弁が辿り着く終焉の場所であるそこは、湖のかすかな波に寄せられた花びらが寄せ集まり、水面を完全に覆い尽くしていた。
一人は、片膝を抱え込んであごを乗せていた。
一人は、あぐらをかいて両肘をついていた。
一人は、ごろりと寝転がり組んだ両腕の中に口から下をすっぽりと埋めていた。
「……花見に来たんじゃねえのー…?」
寝転んでいたシーナが、あごを沈めたままもごもごと呟く。
ちらりと横に目をやった2人は姿勢も変えずにそれぞれああとくぐもった返事を寄越した。
薄桃色となった湖面は、ささやかな波によって静かにうねりを繰り返す。
花びらが覆っているだけで水としての質感は消えうせ、かわりに何とも不思議な気持ちを起こさせる眺めだった。
「あそこに飛び込んだらさー、どうなると思う?」
やはりもごもごとした問いかけに、3人の頭にぽんとその光景が浮かんだ。
一面の薄桃色の中、湖の碧が飛び込んだ人型にくっきり抜き取られている様を。
そして飛び込んだ者の身体の表面に、ぴったり桃色の膜が貼りついている様を。
ふと意味ありげな沈黙が落ち、彼らはどこか期待を含んだ視線で互いの顔を窺った。
2人の視線を集めた若者は、自分の発言が墓穴を掘ったことに気付いて慌てる。
「変なこと考えるのはやめろよ?」
「言い出したのはお前だろ」
「見てみたい」
にやりと同時に笑った2人から逃れるように、シーナはぐるんと仰向けに転がり、そこで「お」と短く呟いた。レンとルックが視線を追うように顔を上げる。
組んでいた両腕を頭の下に敷いたシーンは、寝転がったまま空を見上げた。
「こっちのが花見らしい」
それは自分から意識をそらすための言い訳でもあったが、無言で同意した2人はそれぞれぽすぽすと乾いた音を立てて仰向けに転がった。
空を仰いだ3人の頭上を、小さな花びらがひらひらと、ひるがえっては風に乗り、くるくると回っては流れるように目の前をよぎっていく。
「満開もいーけど、散ってる最中ってのもいいな」
「ああ」
「そうだね…」
嘆息する声に、ささやかな同意。
それきり言葉も交わさずに、3人はそれぞれ空を見上げていた。
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