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あと5分で家を出る予定ですが、その前に時機を逃さずSSアップ。
お花見SSで、4主(カイト)と坊(レン)。
頭の中にイメージは浮かんでいるのですが、文章にするのは難しいな…



 桜色の風に抱かれて


どこまでも。
どこまでもどこまでも続くその林の中で、レンは呼吸をすることすら忘れそうだった。
足元には背の低い雑草が花もつけずに生えている。おぼろげな色をした地面の上に、妙にくっきりと輪郭を浮かび上がらせて太い幹が太い枝を広げている。

あとはもう、一面の桜色。桃色を果てしなく薄めたような、かろうじて色がついていると分かるほどの白が、見渡す限り続いていた。はらはらと絶え間なく降り注ぐ小さな花片。だが、頭上に広がる満開の花はその存在感を些かもゆるがせない。

しんしんと。

それはこの世の穢れを知らぬかのように舞い散る春の雪。
数え切れないほどの花片が、ふわりと風に乗ったかと思うと静かに地へと溶け込んでいく。
全ての動きに音はなく、ただ、後から後から静かに落ちてくる。
淡く淡く、仄かに色づいているだけの小さな花片はどこまでも頼りなく儚げだが、その向こうに見える空が青ければ青いほど、頼りない欠片は透き通るような輝きを増した。

今、小指の爪より小さなその一ひらが空中でくるりと翻る。
レンが見守る中、上を向いた顔の上にふわりと乗って、そのままふわりと落ちていった。

「…カイト」
「ん?」
「……積もってるよ」

静かに佇んだまま花片が頬をくすぐっていく感触に目を細めていたカイトは、レンの声に顔を戻すと視線を上から横へと転じた。その拍子に髪や額に乗っていた数片がはらりと零れ落ちる。そのうちの一つを受けようと手を出しかけてから、思い直したようにゆるりと頭を振った。
柔らかな髪の毛が揺れるたび、頭の側で小さな竜巻が巻き起こる。変則的な風に呆気なく舞い飛んでいく花片の動きを目で追って、彼は表情を緩めた。

「なんだか……。ほん……っとに、楽しそうだなあ、カイト」
「楽しいよ」
嘆息するような声に、笑みを含んだ穏やかな応えが返る。

カイトは再び頭上を見上げると、剣を握った右手をさっと大きく振った。
途端にざあっと音が響き、あたり一面が淡い白色に染め上げられる。

「まさに桜吹雪といった感じだな。……風の紋章をこんな風に使うかは置いといて」
「花びら1枚は小さいのにね。集まるとすごい」
「ああ」
「集合の美だね。寄せ合って人を圧倒させる」
「そして人を惑わせる」
「…うん、惑う」
緩やかに渦巻く桜色の中で、カイトは静かに瞼を閉じた。

「桜の下には、死体が埋まっているんだって?」
レンは、黙って頷いてからカイトが目を閉じていることに気付き、ああと声に出して答えた。
「そういう伝承があるな。人を惑わせ、現世と隔世を繋ぐんだ」
「…………いいなあ」
染み出るような嘆声が耳に届いた時、レンの視界が再び桜色に染まった。
先ほどよりも強い風が地から空に向かって吹き上がる。
大木から離れて地へ帰った花びらが再び浮き上がって梢を揺らす。そしてはるか上空で向きを変え、再び地上に降り注ぐ。
上と下から降り注ぐ仄白い乱舞に、片手を空に掲げたカイトの姿は束の間隠された。



レンは黙したまま、敬虔な気持ちにさえなってその様を見守っていた。
現世と隔世の狭間に立ち、薄桃色の世界の中で佇む黒。
この下に死体が埋まっているとしたら、それはなんて似つかわしい光景だろう。

生と死と。
それは己に課せられたものだけど。
「(……今だけは、カイトの方がふさわしい気がする)」
心の中で呟いて、レンも静かに瞼を閉じた。
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2008/04/02 11:01 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

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