こうなる予感はしていた。
まだ不完全燃焼ですが、ホワイトデー記念SSです。
坊(レン)、4主(カイト)、クレオで、@グレッグミンスター。
自分で宣言して書いたネタの割には、なんかもう……
まだ不完全燃焼ですが、ホワイトデー記念SSです。
坊(レン)、4主(カイト)、クレオで、@グレッグミンスター。
自分で宣言して書いたネタの割には、なんかもう……
トラン共和国、グレッグミンスター。
ホワイトデーのお返しにとイリクがデュナンのレストランで腕をふるっていた日の夜、レンとカイトはレンの家の居間に落ち着き、クレオと3人で夕食後のお茶を楽しんでいた。
夕飯を作ったのはカイトで、レンから3倍返しの法則を叩き込まれたカイトはクレオが恐縮するほどの豪華なディナーを提供してみせた。まったく恐縮していないレンが一番おいしい目を見たのは間違いない。
面倒くさいとぼやきつつも昼のうちにあちこちへ顔を出して義理堅く礼を返していたレンは、お茶を飲みながらほっと息を吐いた。
「こんな制度を考えだした菓子業者をそのうち〆てやりたいな」
「笑顔で何をおっしゃってるんですか、坊ちゃん」
クレオが呆れた顔になる。カイトは笑って腰を上げた。
「レン、疲れてるなら何か甘いものを食べる? ブリュレとチーズケーキとマカロンとゼリーならあるけど。そろそろ冷えてる頃合だと思う」
「3人しかいないのにそんなに作ってどうするんだよ」
「量はそんなに多くないよ。食べきれない分はおすそわけすればいいし」
軽い足取りでカイトが台所へ向かう。
すぐに戻ってくると、「少しずつでいいかな」と小皿にデザートを取り分けた。
「2人ともそんなに甘党じゃないから、甘さは抑えてるんだ。……はい、クレオさんの分です」
「ありがとう」
皿を受け取ったクレオがにこりと微笑む。
フォークを手にしたところで、ふと思いついたように顔を上げた。
「そういえば、今さらですけど坊ちゃんもカイトくんも良かったんですか? こちらに来て」
「なんで?」
「デュナンのお城で、期待して待ってる方がいたんじゃないですか」
「グレッグミンスターにも期待して待ってるのがいたからなあ」
そう答えたレンが苦笑した。
「どっちが怖いかと言えば、こっちの方が怖いね。不義理もしたくないし」
「その割にはバレンタイン当日はこちらにいらっしゃいませんでしたが」
「少しでも数が減るでしょ? …と思ったけど、そうでもなかったな」
「そうですね」
クレオがくすりと笑う。
戦後数年間姿を消し、その後もふらりとどこかへ出かけてしまうレンだが、バレンタイン当日にはそんなことはお構いなしとばかりに昔の仲間やら知人やらからたくさんのチョコが届けられた。
とうてい食べきれず、まだいくつも残っている。
「でも、カイトくんはデュナン方が知り合いの数が多いんじゃないですか? 坊ちゃんに付き合ってしまって良かったんですか?」
「……う」
「?」
話を振られたカイトの表情がピキりと固まる。
クレオが首を傾げる横で、レンがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。
「カイトの場合は逆だよなー」
「逆?」
「カイトはデュナンの方が怖いから、僕について来たんだよ」
なー、と声をかけられたカイトが再びううううとうなり声をあげる。
そちらへ楽しそうな視線を送り、レンはクレオに顔を向けた。
「チョコをくれた人にはトランへ来る前にお返しをあげてたみたいだから問題ないだろうね。それより大事なのは、カイトの場合、今日はお返しを”もらう”日でもあるってこと」
「ああ……男女関係なく配ってたんですっけ?」
「そうそう。しかも誤解させるようなあげ方してた」
「レン!」
「そういえば、カイトにチョコのお返しをまだあげてなかったな」
抗議の声を無視して立ち上がると、レンは部屋の隅から大きな紙袋を取ってきた。
ガサゴソと音を立てて中身を取り出すと、カイトに向かってにこりと笑う。
「結構苦労して手に入れたんだぞ? はい、口あけて。あーん」
「……あーん」
何か言いたそうな顔をしたまま、カイトが口を開ける。
レンはわざわざ顎に手をかけて顔を上向かせると、その中にこぽこぽと酒を注ぎ込んだ。
「……坊ちゃん、カイトくん。お酒はそうやって飲むものじゃありません」
「ま、そうだな。せっかくだし3人で飲もう」
あっさり言うとレンは酒瓶を引っ込める。
グラスのしまってある棚に歩きながら、顔だけこちらに向けた。
「でも、こんな感じで渡してたんだ。しかもいちいち告白つき。イリクですら真っ赤になってた」
へええとクレオが感嘆の声を上げて、口の中の酒をごくりごくりと飲み干しているカイトに目をやった。
「やるわねえ、カイトくん」
「(ごくり)。……あの、感心しないでください」
「いやいや、感心するところだろう」
レンは戻ってくると、くすくすと笑いながら3つのグラスに酒を注いだ。
2つのグラスをカイトとクレオの前に置き、自分の分を手に取る。
「純情な兵たちがカイトの名前を聞いただけで赤くなっててさ、おかしかったな」
「……笑い事じゃないよ」
「で、だ」
良い笑顔のまま、レンが自分の手の中でグラスを揺らした。
「手作りチョコをもらって頬を染めていた男たちが、今日はカイトを探して右往左往してる」
カイトの顔が、またピシリと固まった。
「……そんなことはない、と、信じてる」
「分からないぞー」
「……シュウさんの下で、そんな風紀の乱れは起きないはず」
「でも逃げてきただろ。僕がトランへ行くと行ったらいそいそとついてきたもんな」
「……俺だってトランに用事あったし」
「どうする? デュナンに戻った途端に指輪とかもらっちゃったら」
「そんなこと…ないもん……」
しゅるしゅるとカイトが小さくなっていく。
見かねたクレオはレンの頭をこつんと小突いた。
「坊ちゃん、年上の方をからかうんじゃありません」
「あはは、ごめん。こんな歳になってバレンタインだのホワイトデーだのであたふたしてるカイトが楽しくて」
「全然フォローになっていませんよ」
「ま、そんなわけで。ほとぼりが冷めるまで1週間、今回はこっちにいるつもりなんだ」
「……すみません」
酒の入ったグラスを両手で包み込むように持ったカイトは、そこへ向かってはあとため息をついた。
「こんな制度を考えだした菓子業者を〆てやりたいなあ……」
「そうか。よし、明日の予定は決まったな」
「…坊ちゃん」
「なんで僕だけ怒られるんだよ」
「あなただけ若干本気だからですよ」
クレオは自分も酒のグラスを手に取ると、匂いを嗅いだ。
「でも……カイトくんには災難だったかもしれないけど……私には得だったわね」
「え?」
カイトが顔を上げる。クレオはにこりと笑うと、手にしたグラスを軽く揺らした。
「バレンタインにももらえて、ホワイトデーもおいしいご馳走をいただいちゃって、こうしておすそわけもいただいて、しかもしばらく家にもいてくれる。滅多にないほど良いバレンタインで、ホワイトデーだった」
バレンタインも、ホワイトデーも、基本的には若い女の子向けのイベントだ。
甘いお菓子に彩られた甘いイベント。
そして色恋に無縁になった身には、ただの慣例行事だ。
決められた通りにチョコをあげ、お決まりのようにお返しをもらう。
好きな人に渡す高揚感も、もらえるだろうかという不安感もなく、胸が高鳴ることもない。
特にクレオにとって、『好きな相手にあげるチョコ』はもう存在しない。
バレンタインを前にしたことと言えば、いつ帰ってくるかわからないレンのためのチョコと、レンと一緒に来るかもしれないカイトの分のチョコを買っておいただけだ。
でも、たまには。
こんな予想外の喜びがあってもいい。
「そう…ですか?」
なぜか心細そうにカイトが首を傾げる。
「そうですよ。ホワイトデーに贈るものを選ぶ楽しみさえ味わうことができたんですから」
「え?」
「タイミングを逃して少し遅くなりましたが」
ソファのクッションの下から隠していた包みを取り出すと、レンが「ああ!」と声を上げた。
「ずるい! クレオ、僕には?」
「ありますよ、もちろん。でもカイトくんが先です」
包みをカイトの膝の上にポンと置くと、クレオはにこりと笑った。
「ホワイトデーも、悪いばかりじゃないでしょう?」
「…………そうですね」
自分の膝の上を凝視していたカイトは、顔をあげるとようやくふわりと微笑んだ。
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「というか、困ってるのはカイトだけだよな。僕も滅多にないほど楽しかった」
「坊ちゃん、台無しにしないでください」
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