出会わなさそうなこの2人が出会ったら。
最近そんなことを考えます。
というわけで、会話SS。
シエラが月の紋章を取り戻す前(=2以前)
最近そんなことを考えます。
というわけで、会話SS。
シエラが月の紋章を取り戻す前(=2以前)
「おんしの血は甘そうじゃのう」
突然言われた言葉にキリルの目が丸くなった。
怖れも嫌悪もない、ただ純粋な驚きを浮かべて。
「えっ!?あ、あの……お腹壊しちゃうと思うんですけど」
「壊すかどうか、試さねば分からぬな」
「えっと……人の血とは違うと思うけど…」
「関係ないわ」
「……お腹空いてるの?」
「単に血の味が好きなだけじゃ」
「ふぅん、変わってるね」
それは蔑みも怖れもない、ただただ素直な感想だった。
揶揄も含まず、純粋な感嘆で言われてしまえば怒る気も起きない。
「(だが、そうまで言われては味わわないで済ます手はあるまい)」
そう考えたシエラが、てっとり早く雷を落として気絶させてしまおうと白い手を空中に掲げようとした時だった。
「これでいいかな?」
すっ、と片膝をついたキリルが首を傾げた。
さらりと艶やかな黒髪が流れ、耳からうなじが顕になる。
上げかけた手を下ろして、シエラは呆れたように鼻を鳴らした。
「どういうつもりじゃ?」
「え?首かなと思ったから噛み付きやすいようにと思ったんだけど……手の方が良かった?」
言いつつ、片膝をついたままの姿勢ですっと右手を差し出した。
思わずその手を取ると、シエラは可笑しそうに笑う。
「おんしの方がよほど変わっておるわ」
「そう?…これで大丈夫?」
「うむ。よい心がけじゃ」
にやりと笑った口元から真っ白な牙が覗く。
そのまま、差し出された手を引くように首筋に口を近づけたところでキリルが「そうだ」と呟いた。今まさに牙をつきたてようとしていたシエラは動きを止める。
「あの…これ以上人から離れるのは嫌なので、それだけいいですか?」
「嫌だと言ったら?」
「うーん……困るけど……」
「同族になれば世界で一人きりの存在ではなくなるが?」
「あ……そうか」
「どうじゃ?」
「……」
「……」
「…………いい、かも…しれない」
「…ふ」
小さく笑うと、シエラは首筋に牙を立てる。
つぷり、と小さく肌が弾ける音がして、口の中にじわりと温かな感触が広がった。
血を吸われるのは苦痛ではないはずだが、全く何も感じないわけでもない。
だが、キリルはシエラがこくんと血を飲み下す音を耳元で聞きながらも全く動かなかった。
やがて、赤く染まった牙がそっと離れていった。
首筋に開いた小さな穴からぷくりと赤い塊がふくらんでいく。
ほんの小さな点が小さな球体になり、弾け、鎖骨の方へ赤い一筋を作り出す。
シエラはそれをぺろりと舌ですくうと、「ふむ」と満足そうに呟いた。
「変わった味じゃな。だがまずくない」
「まずくない?本当?」
「嘘を言ってどうするのじゃ」
「……良かった」
それまで呼吸までひそめていたキリルは、そこでほっと息を吐いた。
「この世界に生きる者の味じゃな」
「ほんと?」
「嘘は言わんというのに」
「……ありがとう。いい人だね、貴女は」
視線を合わせると、黒い瞳がにこりと笑んだ。
血を吸われてわずかに白くなった顔色が黒い髪に映えている。
首筋に手をやり、そこにわずかに滲んでいるものを人差し指の先ですくうと、ぺろりと舐めた。
そして不思議そうに首を傾げる。
「……あんまり美味しいとは思わないな?」
「当たり前じゃ。吸血鬼にはしておらん」
「えっ?」
「仲間が欲しいなどと思ってはおらん。おんしをからかっただけじゃ」
「な…なんだ……」
ほっとしたような、残念がるような。
複雑な表情を浮かべたキリルを美少女の姿をした吸血鬼が覗き込む。
「自分と同じ存在がおらぬのは寂しいか?」
「え?うーん……もう慣れたかな」
「ひよっこが強がるでないわ」
「はは」
「……次に」
「?」
「次に会ったら、またおんしの血をいただくとするかの」
「次……あるかな…?」
「この世界に飽いてなければ、また会うこともあるであろう」
「!うん、楽しみにしてます!」
ぱっと顔を輝かせたキリルを見て、いつも皮肉か冷めた色を浮かべている紫色の瞳がふわりと柔らかな笑みをつくる。彼女を知る人が見たら驚くに違いない表情のまま、立ち上がるとばさりと音を立てて真っ白なマントを己の華奢な肩にはおった。
そのまま立ち去りかけて、思い出したように後ろを振り返る。
「それではの、異界の子」
「ええ、貴女も元気で」
「シエラじゃ」
「僕は、キリル」
真の紋章を持たなくても不老の2人です。
異界の血を引くせいでかラプソのEDから年を取らなくなってしまった(←異論はあるでしょうが)キリルと、吸血鬼の始祖ゆえ月の紋章を手放しても不老であるシエラ。
……なんかほのぼのとした雰囲気がただよいそうなんですが(笑)
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