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ひとりで後夜祭
宴さまの企画がコンプリート!ということで、後夜祭的なものを書いてみました。予定が狂いまくってるのはいつものことです。

こういうパラレルを書くことはもう滅多にないと思いますが、この企画めちゃくちゃ楽しかったです。何度も言っちゃう、ありがとうございました! ちなみに企画様で書いたのは、

・ケネスin1時代
・リオンinラプソ時代
・マッシュin2時代
・ササライinラプソ時代
・アンダルクin4時代

……なんという群島率。ササライやリオンなど、普段あまり書かない人に挑戦したつもりだったのに結局群島かよ、みたいな(笑)。一番楽しかったのはササライさまとシメオンさまのラブラブばかっぷるでした。


さて、ではひとりで後夜祭。
シーナin5時代です。


※王子=「セイリーク・ファレナス」


『なんという愚かな!!!』

突如響いた大声に、階段を上っている最中だったセイリークは危うく足を踏み外しそうになった。
さっと両脇から伸びてきた腕に支えられて何とか踏みとどまると、左右と顔を見合わせる。
右腕を支えてくれたカイルが、「今のって…」と首を傾げた。
「ゼラセさん…ですよねー…? 今日は一人じゃなかったですっけ」
「シンダルおたくさん達は地下で楽しそうにしてましたもんねぇ」

だから、ゼラセ一人でいるなら、石板のことや紋章のことを聞かせてもらえるかと思ってやって来たのだ。
シンダルハンターたち以外に、封印の間を訪れる者はほとんどいない。
だが、次の瞬間、シンダルの技術で作られた堅牢な壁がゼラセの怒号でびりびりと震えた。

『愚かな!! …立ち去りなさい、一刻も早く!!!

聞き慣れた台詞とはいえ、声音にいつもとは明らかに違う何かがある。
セイリークの顔つきが変わった。
「ミアキス、カイル。行こう!」
「はぁい」
「承知!」
3人は勢いよく残りの階段を駆け上がると、封印の間の扉を蹴破るように開いて一斉に部屋へ飛び込んだ。


 *********


いつも静かな封印の間は、なんだか異様な空気に満ちていた。
正面にいるゼラセは、フードを下ろして頭をかきむしらんばかりにして怒っている。
そして、その前に見知らぬ少年が一人、こちらに背を向けて立っていた。
「だからさ、ちょっと一緒にお茶でも飲みに行こうって。あ、ゼラセさん、その胸寒くないっスか? オレがその谷間を温めてあげますよ!」
「愚かな…!なんという愚かな…!!」
「っひゃあ~いいねえいいねえ、ゾクゾクするぜその罵声! キャーもっと罵って!」
愚かな…!!



「…確かに愚かだ」
「愚かですねー」
「愚かすぎて笑えますぅ」

3人の声に、ゼラセに話しかけていた少年がこちらを向いた。
金髪に近い淡い色をした髪に茶色の瞳、すらりとした目鼻立ちで顔は整っている。
口元には軽薄な笑みを浮かべていたが、ミアキスを見つけるとパッと瞳を輝かせた。

「待ってました、女の子! しかもすっげー可愛いじゃん! なあ、名前は? 年いくつ? 彼氏いる?」
矢継ぎ早の質問を浴びて、ミアキスの眉が跳ね上がる。
セイリークがヤバイと思う間もなく、腰から短刀を引き抜いてにっこりと笑った。
「……王子、セラス湖に生ゴミを投棄してもいいですかぁ~? 大丈夫、きっとビャクレンさんが美味しいって食べてくれますよぉ」
「ミアキスお願い、ちょっと待って」
セイリークの制止の声に、少年は満面の笑顔でパンと手を叩く。
今、自分が命を救われているところだというのが分かっているのだろうか。
「ミアキスちゃんて言うんだ! 可愛い名前じゃん! いいねいいね、ゼラセさんは美人な上に胸もデカイし、ミアキスちゃんは胸はないけど可愛いし!」
王子ぃ…?」 ミアキスの声が、さらに1トーン低くなる。
「気持ちはすごく分かるけど我慢して」
セイリークは低い声でたしなめると、ゼラセへ顔を向けた。

「……状況を教えてください」

ゼラセはうんざりしたという顔を隠さず、深い深いため息をついた。
説明するのも面倒くさそうだったが、それでも頭を傾けると目線で背後の石板を指し示す。

「いつものように私はここへ立っていました。すると突然、あの石板からノックの音が聞こえたのです」
「石板からノック?」
「ええ。私が『何です?』と問いかけるとガチャリと開き、この男が『お邪魔しまーす』と入って来ました」
「…………」
「以上です」

まったく分からない。

カイルが首をひねりつつゼラセの話を復唱した。
「えーっと、石板からノックでー…」
「ええ」
「『何です?』って言ったら、石板が扉のように開いて…?」
「ええ」
「で、そこの人が『お邪魔しまーす』……?」
「そう言っているでしょう」
「何なんですかそれ!!???」
「本当に、何という非常識な…!」
「それには同意しますけど」

セイリークは深くため息をつくと、ニヤニヤしている少年に向かい合った。
正面から見ると、身長も年の頃もロイによく似ている。つまり、自分に近い。

「で、君は? 名前、出身、年齢、ここへ来た理由を教えてください」
「それなんだけどさ、今って何年?」
「は? …クワルシェード暦237年……ですが」
「クワ…? あれ、ここファレナ!?」
「…そうですが」
「わりぃ、太陽暦で教えてくんねえかな?」
「449年」
「ん? …あ、あーー! だから王子か。なるほどね、すげー!!」
「それで」

少年はにかっと笑うと手でVサインを作った。

「オレの名前はシーナ、出身は赤月帝国のコウアン、今年で10歳だけどオレは16歳、ここへ来た理由は……多分落書きしようとしたから、かな? お前は……王子だよな、確か…そう、セイリークだろ? よろしく頼むぜ!」
笑顔で右手を差し出されたが、セイリークはぴくりとも表情を変えなかった。
「年齢と理由をもう一度」
「要約するとだな、オレは6年後の赤月帝国から来たの。つまりこれが初海外で初時空超え! ついでに彼女も募集中だ!」
理由
「おっ、意外と厳しいな? だから落書きしたんだって」

その意味が分からないから尋ねているのだ。
無言になったセイリークの横で、ミアキスが短刀を構え直した。

だ・か・ら、それが何なのかって、王子が尋ねていらっしゃるんですよぉ?」
「えっと、そうだなー」
ミアキスが全身から殺気をみなぎらせていることに気付いていてスルーしているのか、本当に鈍感なのか。
シーナは目の前にちらつく短刀に臆した様子もなくポリポリと頬をかいた。
「オレんとこも帝国と戦ってるとこでさ、石板があんだよ。ここにあるのとおんなじのが。で、オレは暇だったから、それにイタズラ書きでもしてやれって思ってね。釘でガリガリやってたら、失敗しちゃって。直せないかと思ってゴツゴツ叩いてたら、そっちから『何です?』って言われてさ。しかも絶対美女の声! だからさ」
「だから?」
「来ちゃった」

セイリークはがっくり頭を垂れた。

「愚かな…!」
「なんだか今日はやけにゼラセさんに共感します…」
「なあなあ、それよりここって女王国だろ? 宿星も女が多かったりする? えーとオレの星は……ニフサーラさんか。どんな人? 女? 美人?」
「美少年好きのね」
「え、まいっちゃうな。美少年ってオレのことじゃん」

どーしよー、とウキウキ手を合わせたシーナを見て、セイリークはミアキスに視線を移した。

「本当にどうしよう、この人」
「さっさとセラス湖に投棄しませんかぁ? きっとビャクレンさんが…」
「ダメだってば。……ゼラセさん、石板は開かないんですか?」
「こちらからは無理のようです。…そもそも、石板は扉なんかではありません! 何をやっているのです、あなたは。本当に…」

「「愚かな!」」

おどけた口調のシーナと見事にハモってしまい、ゼラセは怒りのあまりぷるぷると震えた。

「王子、王子。あの人ほんとに愚かですよー」
「……カイルにまでそう言われるとは」
「えーなんですかそれ」
ひどいですよう、と口を尖らせた時、石板からコンコンとノックの音が聞こえた。
途端に、その場にシーンと沈黙が落ちる。


コン、コン。


「入ってまー…
「「「「どうぞ!!!!」」」」
耳をほじりながらぶっきらぼうに言ったシーナの声にかぶさるように
セイリーク、カイル、ミアキス、ゼラセの4人は力の限り叫んだ。

全員が見守る中、ガチャリとドアノブが回る音がして、別の少年がそこから顔を覗かせた。
さらり、と髪の流れる音が聞こえそうだ。こちらは整っているどころではなく、明らかにはっきりと美少年。
彼はさっと室内に目を走らせると、シーナに目を留めて苦い顔になった。
はあ、と大げさにため息をついた後、頭を上げてすぐ側に立っているゼラセを見上げる。
「あんたのところだったんだ。久しぶりだね」
「……まったく。あなたも何をやっているのです!」
「文句ならソイツに言ってくれない?」
「愚かな…!」
「はあ、誰が? その馬鹿と一緒にしないでくれるかな、人がせっかく面倒くさいのを我慢して迎えに来てやってるのに。このうえなく不愉快で迷惑なんだけど」
「それはこちらの台詞…!」
「うるさいなあ。もう少しカルシウム取った方がいいんじゃない? だから星辰剣にも逃げられるんだよ」
「余計なお世話です!!!」
この少年は、どうやらゼラセの知り合いらしい。神経の太さはシーナとどっこいどっこいと言ったところか。
綺麗な顔をしているが相当に毒舌の持ち主だ。ゼラセにこんな口の利き方をする人間を初めて見た。

彼は怒りくるっているゼラセのことをそのまま無視すると、シーナを睨みつけた。
「さっさと来い、この馬鹿」
「い・や・だ・ね! こっちの方が可愛い女の子がたくさんいそうだし! なんたって女王国!」
「ふざけんな」
「オレがふざけんなって言いてえよ! なんだよあの解放軍のムサ男率!? レンに言ってやって、宿星の半分を女の子にしてくれたら帰るって」
「……裂くよ?」
すっと目を細めた少年は、思い直したように右手を上げた。
「それも面倒だな。ゼラセさん、そいつ引きずってきて。……眠りの風」
「うわ待てお前ソレひきょ…」

言いながら逃げ出そうとしていたシーナの身体が、ガクリと沈みこむ。
どさっと崩れ落ちる音にセイリークが脇へ目をやると、カイルやミアキスまでもが次々に床へ沈んでいた。
「ミア…」
名前を呼ぼうとしたセイリークの意識も急速に薄れ始める。
身体から力が抜け、目の前が暗くなっていく。

「(え、これが眠りの風…? なん、か、強……)」

ぶつり、と意識が途切れる。
そして世界は真っ暗になった。


 *********


彼らが封印の間で目を覚ました時、シーナの姿はもうなかった。もちろんもう一人の少年の姿もない。
石板はいつものように部屋の奥に整然と佇んでおり、その前にはいつもと同じようにゼラセがいる。
――ただし、いつも以上に機嫌が悪い顔をしているが。

「ゼラセさん…」
「話すことなどありません」
「あの人…」
「話すことなどないと言っているでしょう!!」

はき捨てるように言った後、ゼラセは真一文字に口を閉じた。
本当に、これ以上は何一つ説明する気はないらしい。

仕方ないと部屋を出ようとしたセイリークの背後から、疲れたような呟きが聞こえてきた。

「本当に、愚かな…!」
「(ほんとにね)」


『愚かな』でゲシュタルト崩壊を起こしていたセイリークは、その言葉を使わずに同意した。
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2009/04/29 02:06 | Comments(0) | TrackBack() | 二次創作

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